短編[甘] | ナノ


▼ アイスプレイ‐01

『日中の最高気温は33度。本日も殺意が湧くほどの真夏日となるでしょう』


「…あぢー」

「あづぁーー」

4畳半の色あせた畳の上に優奈と遥斗は打ち上げられた巨大イカのようにでろりと横たわっていた。

窓を全開にしてはいるものの、流れてくるのは神経を逆なでするセミの大合唱ばかり。

隅に追いやられたちゃぶ台の上の扇風機は暑苦しい空気を掻き回すだけで、誠意というものをまるで感じない。

景色が揺らめくほどの熱に包まれている2人はただ寝そべって呼吸をしているだけなのに、額や首筋に球の汗を浮かべていた。

「あー…アイス食いてぇ…」

「さっき食べたばっかじゃん…」

「いや、でも食う」

「あぁっ、私も食べるっ!」

立ち上がった遥斗に慌てて声をかけ、優奈は気だるく上半身を起こした。

2ドアの小さな冷蔵庫の上のドアを開け、こぼれ出す冷気に癒やされつつ遥斗は棒アイスの箱をあさる。

「あ。ヤベェ」

「えっ、何?」

「これでラスト」

「ええーっ?! 昨日買ったばっかりなのに!」

愕然とする優奈にアイスを投げ渡し、遥斗は我先にとビニールを破いてアイスを口に含んだ。

「…あれ?」

その様子を眺めていた優奈が、自分と遥斗のアイスを見比べてポツリと声を漏らす。

「どーした?」

「なんで遥斗が苺ミックスなのっ? ずるいっ、私そっちがいい!」

渡されたアイスは白一色のミルク味。

対する遥斗はピンクと白のマーブルがなんとも乙女心をくすぐる苺ミックス味。

最後なんだから私に譲ってよ、と優奈は手遅れにならない内に早急な交換を求める。

しかし遥斗も無類の苺ミックス好き。

敵意を眉間のシワに表し、断固としてアイスを手放さない。

「自分で取りに行かなかったお前が悪い」

「だって遥斗がさっさと取りに行っちゃうんだもん! ズルいズルいズルいーっ!」

「早く食わねーと溶けるぞ。つーか溶けてる」

「え? うわっ!」

遥斗に指摘され、ふと手元に目をやると、早くも暑さに負けたアイスがビニールの中に白い雫をこぼしていた。

優奈は急いでビニールから泣き濡れているアイスを救い出し、口に運ぶ。

「…んーっ、美味しぃー」

苺が入っていないとはいえアイスはアイス。

口内に瞬く間に広がった至福の食感に優奈はうっとりと目を閉じ、火照った顔を解きほぐした。

たかだか苺ごときで荒だった自分が恥ずかしいとすっかり鎮静された優奈は夢中になって甘味に浸り尽くした。


「…ん」

「ふぇっ?」

それから数分後のこと。

穏やかな表情に戻った遥斗が残り半分になったアイスを優奈に差し出した。

彼もまたアイスに癒やされ、良心が生まれたのだろう。

「…いいのっ?」

「はよ食え」

瞳を輝かせて尋ねる優奈に遥斗はぶっきらぼうに言い捨てる。

「えへへっ、ありがと! …あー…んっ!」

「あ゙ぁっ!!」

「んぐっ!?」

和やかムードを一裂きした突然の怒声に優奈はビクッと肩を跳ね上がらせた。

そして何事かとその声を発した遥斗を見上げると、遥斗はアイスのなくなって棒を持ち、落胆と怒りのオーラを滲み出していた。

「…誰が全部食っていいっつった?」

「え?! 全部くれるんじゃないのっ?」

「なわけねーだろアホ! 一口だ一口!」

「あっ、あほぉ!?」

悪態をぶつけられ、そんな子供みたいに怒らなくてもと自分のことは棚に置いて苛立つ優奈。

素直に謝る気などあれよという間に失せ、反抗的態度を全面にフンッと顔を背ける。

「アホはそっちじゃんっ! そんなことぐらいで怒るなんて子供みたい!」

「…あぁそう。反省する気ゼロか」

「ぅあっ?!」

やけに落ち着いた声色に恐怖心を起こされたその瞬間、か細い優奈の手首を遥斗の手が強引に掴み取った。

不意打ちを食らい、目を丸くする優奈の顔を遥斗は冷ややかな笑みを浮かべて見下ろす。


「…お仕置きだな」

「は…っ!? なっ、おしおきって…」

強張った優奈の手からアイスを奪い取ると、遥斗は優奈の体を押して無理やり畳の上に組み敷いた。

「何っ、何?! ていうか私のアイス!」

「俺の食っただろーが。…だから俺もお前のアイスを好きなよーに食う」

「や…っ!? ちょっと、なに…ッあ!!」

遥斗を振り下ろそうと身じろいだのも束の間、薄いキャミソールを一息に胸の上までまくり上げられ、剥き出しになった乳房に暑さにだらけたアイスを押し当てられた。

熱気に包まれ汗ばむ肌に冷たさが針のように突き刺さり、優奈の体がひときわ大きく跳ね上がる。

「ぁ、あっ! や…っあ!」

胸の膨らみを円を描くように移動していくアイス。

全神経が張り詰める刺激をもたらし、そして体温によってとろけ、重力に従ってなだらかな斜面を伝い落ちていく。

「んっ、く…ぅ、うっ」

溶けてもまだ冷気を残す雫がこぼれるたび、乳房の内側で小さな刺激の針が暴れ、優奈の中の性感をつつく。

抵抗する力を奪われた優奈は体を小刻みに震わせ、強情に歯を食いしばり、渦巻く貪欲を押し殺す。

快感を素直に表さない優奈を心から楽しそうに眺め、遥斗は乳房を卑猥に濡らす乳白色の水滴を熱い舌先でペロリと舐め取った。

「ひぁあっ!」

突然の皮膚が焼けるような熱に、優奈は驚きや戸惑い…そして歓喜の入り混じった悲鳴を上げる。

「なんつー食べ方してんの…っ、変態!」

「お前だってこんなことされて乳首ビンビンに勃たせてんじゃん」

「…っ!! 違…っ、冷たいから勝手に立っちゃうんだよっ!」

「ふーん?」

「ぁあっ!!」

ふとアイスが離れたかと思うと、胸の頭頂部に脳まで痺れる凄冷が走った。

遥斗の言うとおり固く尖ったそこはアイスを当てられ更に身を縮こまらせる。

性感を密集させた薄桃の実は刺激を過敏に受け取り、体中に電流と棘の入り混じった感覚を送り込む。

息も止まるほどの鋭い衝撃に襲われ、優奈は耐えるようにして畳の目をガリッと掻いた。

「っは…ぁッ! んっ…うぅぅっ!」

白濁した乳輪を舌先がなぞっていく。

甘い極寒に責められ極限まで収縮した実に絡みつき、細かく上下に撫でて弄ぶと、舌は乳房にまで垂れた雫を追い、頂点から逸れて行った。

「あっ、ん…、んッ…ふ…ぅっ!」

焦らされているような愛撫に優奈は切なげな声を漏らし、無意識に腰元を身じろがせる。

…何十回、何百回と受けてきた遥斗の愛撫。

とうに慣れ親しんだ感覚のはずなのに、冷気が神経を鋭敏にさせたのか

優奈は今までに感じたことのない、恥部が異様なほど疼く、狂おしい衝動に侵されていた。

普段は恥ずかしがってなかなか出さない甘ったるい声や物欲しげな腰つきでそのことを十分に察している遥斗は、口元に意地悪な笑みを作ると震える優奈の胸から離れた。

「え…っ」

「もー終わり。アイスなくなった」

「……っ!」

上半身を軽く起こし、掲げられたアイスの棒を見つめる優奈の顔色がみるみるうちに困惑に染まっていく。

優奈の胸の内は抑えようのない淫らな期待でいっぱいになっていた。

ジワジワと欲望をくすぶらせて悶える下腹部。

泣きたくなるような重く激しい心音が脳内を揺さぶる。

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