▼ 第1話-05
「ぅ…ケホッ…!」
首にかかる重みで呼吸が詰まる。
どうやら、喉を掴まれてそのままベッドに押し倒されたらしい。
「くだらないこと考えてサッサと離婚を催促しなかった自分を恨め」
私の喉を覆う手に緩く力を加えながら囁いた彼の目からは慈愛の欠片も見いだせなかった。
「や…だ…っ嫌…!」
逃げることのできない恐怖に私は固く目を閉ざす。
そんな私の心を煽るように、ゴソゴソと手早く着衣を脱ぐ音が聞こえてくる。
そして、
「ひッ…!!」
両脚を起こされ、下着を横に引かれ、排泄する所としか今まで意識していなかったそこに固い切っ先が押し当てられた。
「い…ッあ…! いやっ、や…!!」
重く抉られるような嫌悪感と一緒に、身を裂くほどの痛みが全身を貫く。
耐えきれない苦しみに心も身体も悲鳴を上げて、涙が一気に溢れ出した。
「…っ、ちょっとは力抜けよ」
「も…やだ…ぁっ! 痛いっ痛いよぉ…っ!」
「チッ…しょうがねーな…」
「…ッふぁ! あ…!」
全ての神経を襲う痛みに悶えていると、不意にピリッとした痺れが痛みの中心部から流れた。
「何…っあ! んッん…んぅ!」
彼の指先が私の下腹部に何かをしている。
何をしているのかわからないけれど、指が蠢くたびに電流のような刺激が背筋を突き抜けていく。
体の感覚を支配されているようで、私は怖くなって声を荒げた。
「やだ…っ! どこ、触ってるの…っ!?」
「は? どこって…あんたオナニーとかしねぇの?」
「っそんなこと…するわけないでしょ…っ!」
「…へぇ。今時そんな処女丸出しの女いるんだ」
「…っあ! あッあ…!んん…っ!」
強張る神経をゾクゾクとくすぐりながら流れていく感覚に勝手に声がこぼれてしまう。
恥ずかしくなって私は口を手で塞ぎ込んだ。
「でも、感度はちゃんとあるんだな。ここ触られるの気に入った?」
「ん…ッんん…!」
嘲笑混じりの問いかけに何度も首を横に振ったけれど、私の意思とは裏腹に体のあちこちがビクビクと跳ねて呼吸が乱れていく。
全身に浸食していく疼きは抑え込もうとするほど理性に抗って獰猛さを増し荒れ狂う。
「素直に気持ちいいって言えよ。無理やり犯されて、クリ弄られて感じてんだろ?」
「…っ感じて…なんか、ない…ッ!」
「嬉しそうに中ヒクつかせてるクセに…。しかも濡れてきたし」
「ぅあッ!ぁ…ッあ…!」
激しい疼きで薄れかけていた痛みが再び下半身の中心から響き渡った。
強引に秘部をこじ開けながら侵入を進める熱の塊。
苦痛なだけの恐ろしい異物感に私はがむしゃらにシーツを掻き毟って堪える。
「こっちの感覚に集中してろ」
「ふぁっ! ぁッ!んっ、んぅぅ…!」
彼の指が細かくその一点を擦って痛みを溶かしていく。
苦痛に耐えかねて言われた通りその淫らな刺激に集中していると、下腹部の奥底から荒々しい劣情が波のように込み上がってきた。
「んあっ!ぁ、あッ…待って…!なんかっ…あぁあッ!ダメ、っ止めてぇ…!」
思考が丸ごとさらわれていくような熱い衝動が身体の芯を突き抜けていく。
不安と恐怖と不浄な期待感がせめぎ合って、私は何がなんだかわからないまま夢中で彼の腕を掴んだ。
「待…って…っ!変なのっ…体が…!あッ、あ、あぁ!ダ、メ…!ダメ…ぇッ!!」
そんな私を劣情の底へ突き落とすように指は容赦なくそこを責め立て続ける。
「あっあぁッ!も…っダメ…!んんッ!んうぅぅぅぅッッ…!!!」
狂喜の荒波が一気に押し寄せて、なすすべもなく私はその狂おしい衝撃に飲み込まれた。
思考が真っ白に弾けて意識が遠のく。
「んッんぅ…!うぅぅぅっ…!!」
ガクガクと全身を痙攣させながら、必死で口を押さえ込む。
こんな声を絶対に部屋の外に漏らしたくないというギリギリで繋ぎとめた理性だった。
「っ…ふ…、ぁ、っはぁ…! はッ…」
体がショートしたかのような感覚が去った後もピリピリと細かな痺れが下腹部から走って、そのたびに身体が小さく跳ね上がる。
悔しくて恥ずかしくて、私は痛いぐらい唇を噛み締めた。
「どうだった? 初めてイッた感想は?」
「……っ」
視界を涙で滲ませながら憎しみを込めて睨んでも、目の前の男は冷酷な薄笑いのままだった。
「俺ソックリだな、その顔」
お母さんから性的虐待を受けたときの自分と今の私を重ねているんだろうか。
その言葉で、煮えたぎっていた怒りが冷めていくのを感じた。
彼の辛い過去を思うと、彼を憎みきることはできない。
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