▼ 第1話-04
「ぅあっ! きゃあッ!?」
掴まれた手を力いっぱい引かれて、私はベッドに倒れ込んだ。
状況を全然理解できなくて混乱してる私の上に跨り、宗太くんは私の両手をベッドにキツく押さえ込む。
「は…放して…っ」
絞り出した声はか細く震えていた。
…怖い。
突き刺さる冷たい視線が。
ギリギリと手首を締め付ける手が。
張り詰めた空気が。
私は今まで感じたことのない緊張感に呼吸もまともにできなくなって、ただ目の前の彼を見つめ返すことしかできなかった。
「根っから脳天気な女なんだな。なにが“心の底から幸せそう”だよ。バッカじゃねーの?」
「だって…っそれは本当に…!」
「黙れ」
「……っ!」
手首を締め付ける手にさらに力が加わる。
これ以上余計なことを言ったら宗太くんはためらいなく私に暴力をふるってくるだろう。
そう確信させるほどの気迫が彼の眼にギラギラと宿っていた。
「サッサとあの男に離婚するよう話してればこんな目に合わなくて済んだのにな」
「……っ!?」
手首から離れた手が腰にまで降りて、シャツの下に滑り込んだ。
そして素早くシャツをたくし上げられる。
ブラが剥き出しになったところで真っ白になっていた脳内がやっと危険を察知して警報を上げた。
「何…っやめて…!!」
身を起こそうとしたけれど途端に肩を掴まれてベッドに押し付けられた。
その手を引き剥がそうとしても、恐怖で震える体じゃ男の力には到底かなわない。
「今まで俺が何をされてきたか、教えてやるよ」
「っいや…!!」
力任せにブラを引き上げられて、呆気なく乳房が彼の前にさらけ出される。
冷え切った空気に包まれ、胸の奥が震え上がった。
「なんだ。思ってたより小さいんだな」
「やッ…! 見ないで…っ!!」
男になんて一度も見せたことのない自分の身体をまじまじと観察されて、血液が沸騰するほどの羞恥が込み上がる。
私は即座に手を振り払って両腕で胸を覆い隠した。
目元に熱い涙が浮かぶ。
ギュッと閉ざすと、不意に、彼の指先がにじんだ涙を撫でた。
「…怖い?」
「……っ」
その囁きに優しさが含まれているような気がして、私はそっと目を上げた。
けれど──、
わずかに芽生えた安堵感は一瞬にして砕かれてしまった。
「いゃ…ッあ!!」
暴力的な力で両腕を再びベッドにねじ伏せられる。
「俺もこんな風に無理やり犯されたんだよ」
酷く冷淡にそう呟いた彼の唇がゆっくりと震える胸元に降りていく。
「や…ぁ…、ッ!!」
冷気に熱を奪われた乳房に妬けるように熱い舌が触れる。
その瞬間、胸の内でぞわぞわっと得体の知れない感覚がざわめいて私は全身を強張らせた。
「…ッ…く…!」
舌は円を描くように乳房を這っていく。
徐々に先端に近付いていくその運びに鼓動が急かされて、頭に重く響くくらい心臓がドクンドクンと脈打つ。
「…ふぁ…っ!!」
緊張を極限に高められた胸の頭頂部についに舌先がたどり着いた途端、唇でそこを緩くついばまれ、予想のしてなかった刺激に私は思わず体を跳ね上がらせてしまった。
「感じてんの?」
「…っ違う!」
「でも固くさせてんじゃん」
「違うっこんなの…っ、あ!」
キュッと摘み取るように唇が先端をくわえて、不規則に蠢く舌先が執拗に襲いかかる。
未知の感覚は一層激しくなって体中を駆け巡っていく。
緊張が知らず内に蕩けていってるのに気付いて、私は慌てて気持ちを引き締めた。
「もうやめてっ…!」
腕をひねっても相変わらず手はビクともしないし、胸から流れる刺激はどんどん激しくなっていく。
意識が白濁していきそうになるのを必死で抑えながら、私は頭を起こして瞳に力を込めて彼を睨み付けた。
「なんで…っ、こんなことするのっ?」
辛い過去をこんな形で私にぶつけたって何の解決にもならない。
恐怖する反面で私の中で彼を救いたいという感情が灯っていた。
「もう止めようよっ…! これからどうするか、ちゃんと2人で考えようよ…!」
「…これからどうするかなんて、もう決まってる」
彼の鋭い眼が真っ直ぐに私を捕らえる。
「こんな家めちゃくちゃにしてやる」
「っ…な…に言って…」
「ムカつくんだよ。馬鹿みてぇに幸せ幸せってほざいてるお前も、何も知らないでヘラヘラ笑ってるお前の父親も…っ!」
感情を剥き出しにしてそう吐き捨てると、彼は一度小さく溜め息をついてまたいつも通りの冷ややかな表情に戻して話しを続けた。
「俺は前の生活に戻ってもいい。俺をこんな風にしといて1人だけ幸せになろうとしてるあの女も、絶対に許さねえ」
「……っ!!」
身を起こした彼の手がスカートの乱れた無防備な下半身に伸びていく。
私がどんなにお気楽な女だろうとこれから何をされるかくらいは嫌でもわかる。
私は心臓が凍りついていくのを感じながら考えるよりも先に彼の腕を掴んで制止させた。
「や、やめてっ…お願……っあ! ぐッ…!!」
一瞬、何が起こったかわからなかった。
突然喉が息苦しくなったと同時に目の前が反転して、後頭部に衝撃が走った。
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