中編 | ナノ


▼ 第4話‐09

夏見を照れさせてやるはずが見事なカウンターを食らって、私は紅潮していく自らの顔を手で覆い隠した。

どう足掻いても夏見の方が一枚上手らしい。

「…夏見って…ものすごく意地悪だよね…」

どうせ軽くあしらわれるんだろうと観念しながらも私はそう忌々しく吐き捨てた。

「元彼は優しかった?」

「…え…っ?」

『広瀬はものすごく単純』
そんな風に小馬鹿にされるのかと思いきや、応えは意外なものだった。


「なんでそんな…っ…あ!」

突然夏見の手が下腹部に触れ、途端に言葉が詰まって体がビクついてしまう。

手は下着の中へと入りこんでグチャグチャに濡れそぼった媚肉を無遠慮に掻き分けた。

「ひっ…ぁ、あああっ!」

数本の指が膣壁を一息にこじ開ける。

散々掻き回されて解されたそこは簡単に指を深くまで呑み込んだ。

瞬く間に熱い痺れが広がり、あまりに唐突な快感に私は激しく身体をしならせて悲鳴を上げる。

「…俺はあの男みたいな余裕はないから」

「ふぁあっ…! あっ…!」

指が抜かれて、愛液を受け止めきれないほどに濡れた下着がズルズルと下ろされていく。

刺激の余韻に呑まれて完全に力を無くした私は戸惑うこともできずにされるがままになるしかなかった。

「優しくしようとか、そんな加減できないから」

「……っ」

そう言い放った夏見の目は、いつもと変わらないはずなのにどこか冷たく鋭い雰囲気を漂わせていた。

その目に射止められ、期待とも恐怖ともつかない感情がゾクッと背筋を疼かせる。

夏見は視線を下腹部へと移して私の脚を大きく開かせた。

これから襲い来る衝撃を予期して、疼きが一層強く駆け上がる。

「ふぁ…ッあ…!!ぁああああっ!!」

切っ先がヒクつく入口にあてがわれたかと思うと、夏見の体温や感触を感じている間もなく、身体の中心を貫かれるような激震が一気に走り抜けた。

想像を遥かに上回る衝撃に爪先から頭の先まで痺れて意識が昏迷する。

そんな壮絶な一撃目を受け止めきれていないまま荒々しい抽挿が始まり、容赦のない恐悦が体中を掻き乱していく。

「生の方がいい?」

「ひあァああっ!あぅッ、ああぁあっ!」

チカチカと点滅する頭の中に夏見の声が届き、私は『そんなことない』と一心不乱に首を横にふった。

「でも声全然違う」

「こ、え…っ?」

「元彼とヤッてたときはもっと色気づいた声だった」

「……っ!だ、からっ…カズヤとやってるときは、全部…っ演技だって…ふあぁッ!」

「今は?」

「…っなんで…!あっ、あぁあっ!!」

演技じゃないってことくらいわかってるくせに、どうしてそんなことを聞くの?

意地悪なことばかり言う夏見を睨みつけると、反抗的な態度をした報復といわんばかりにますます律動が勢いを増し始めた。

最奥を激しく打ち付けられるたびに体の中枢で快感が弾ける。

立て続けに法悦の荒波が押し寄せ、私はどうすることもできずに情欲に溺れ続けるしかなかった。

「やああぁッ…!だめ、もうだめ…っひあ!ああぁあっ!」

「何で?」

「ほっ、ほんとに…っおかしくなっちゃうから…っ!」

「いいよ。おかしくなっても」

夏見は少し息を乱しながらそう言うと、顔を隠していた私の両手を掴み取って床に押さえ付けた。

「壊れるとこ見せて」

「やっ…!ゃだ、や…ッあああぁあ!!」

今の私の力じゃ夏見には到底敵わない。

夏見の鋭い視線を痛いほどに感じて、私は耐え切れず顔を限界まで背けて固く目をつぶった。

「嫌なの?」

「だって、…っく、うぅッ…そんな…!」

「元彼には見せたのに」

「みっ見せてなんか、な…っああぁ!ふあッあっ、ああぁあ!」

さっきからずっとカズヤのことを引き合いに出しているのは気のせいじゃないはず。

あまりにもあからさますぎる。こんなの夏見らしくない…。

どうして?

もしかして、カズヤにまだ未練を残してるとか思われてる…?

本当にそうだとしたら、早く誤解を解かなきゃ…っ

快楽に苛まれている脳内を必死に働かせてその考えにたどり着き、私は顔を真っ直ぐに夏見に向き直した。


「…私…っ、カズヤのことはもうなんとも、思ってないよっ…?」

「それはわかってる」

「ふぇっ…? じゃあ、なんでっ…」

夏見の意図が途端にわからなくなって、私は戸惑いの言葉を漏らす。

すると不意に抽挿がなだらかな動きに変わった。

「…俺が、勝手に嫉妬してるだけ」

目を伏せて夏見はそうポツリと呟いた。

「嫉妬…?」

「あの男の方が広瀬のことをたくさん知ってるって思うと、頭破裂しそうになる」

「…え…っ」

思いがけない告白が胸の内を乱し、まどろんでいた意識が一気にクリアになっていく。

返す言葉が見つからなくて驚いた表情を浮かべたまま固まっていると、夏見は動きを止めて弱々しく私の胸元に頭を預けてうなだれた。

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