▼ 第4話‐08
「…っ指じゃなくて、夏見のが、欲しい…っ!」
それは演技でもなんでもなく、心からの欲求だった。
恥じらいすら捨て去れるほどに私は身体は貪欲に夏見を求めていた。
でも、それでも夏見は指を止めようとしてくれない。
不満を漏らそうと開いた私の口を唇で塞ぎ、反論はさせないというように激しく膣内を犯して、私の余裕を奪っていく。
「…ごめん。ゴムないから挿れられない」
「ふあぁあ…っ! んッ、く…っうぅぅう!」
「だから、これで我慢して」
「…っ…わ、私の鞄の中に、ある…っ」
息を切らせながらそう言うと、少しだけ指の動きが緩やかになった。
「そこはちゃんとしてたんだ」
「んっ…、ううん…、一応持ってただけで、使ったことはっ…」
「一回もない?」
「…ぅ…っ」
そこで、私は余計なことを言わなきゃよかったと後悔した。
真っ直ぐに私を見下ろす夏見の顔は相変わらずぼやけていてよくわからないけれど、声のトーンや漂う雰囲気から怒りの感情がひしひしと感じ取れた。
“うん”と答えるとその怒りを爆発させてしまう気がして、私は途端に弱腰になってしまう。
「私は、付けたかったんだけど…っカズヤが…! あぁッ!!ぅあああっ!」
おこがましい言い訳を口にすると、指が再び媚肉に猛威を振るい始めた。
夏見の怒りをそのまま表しているような獰猛な刺激に私は、激しく悶えながらも霞む意識の中で軽率だった今までの自分を恥じる。
「やああぁあっ!!ごめっ…なさ…!ぁああッ!」
嬌声混じりに無我夢中で何度も許しを乞うと、ようやく指が膣から抜かれて狂悦から解放された。
大きく肩を上下させて荒い呼吸を繰り返す私とは裏腹に、夏見は全く疲れた様子も見せずに鞄がかけられている私の席へと歩いていく。
その後ろ姿を眺めながら私はズルズルと床に崩れ落ちた。
体を支える力すらもう残っていない。
想いのままに『欲しい』なんて言っちゃったけど…、この体でこれから夏見を受け入れることはできるのかな。…正気を保っていられるのかな。
グラグラと揺れる脳内でそう怖気づいていると、夏見が私の鞄を手にして戻ってきた。
「はい」
鞄を手渡され、私は疲れとためらいの混じったぎこちない手つきで鞄の中のポーチからコンドームを一個取り出した。
「使い方わかる?」
「わっ…! わかるよっ、それくらい!」
夏見の中で私はとことん非常識なダメ女として認定されてしまっているんだろうか。
その汚名をなんとか挽回したくて、私は声を必要以上に荒げながら身を乗り出した。
そして勢いに任せて夏見のベルトに手をかける。
こんな展開になることを予測していたのか、夏見は憎たらしいほど平静なままだった。
…いっつも興奮してうかれたり落ち込んだりしてるのは自分だけだ。ほんと馬鹿みたい。
そう思いながら半ば八つ当たり気味にベルトとボタンを外してチャックを下ろす。
そして夏見のモノの位置を探ろうと下着に手を伸ばした。
「…っ…!」
下着に触れた瞬間、それの場所はすぐにわかった。
探らなくてもわかるほどにそれが硬く大きく主張をしていたから。
…どうせこっちも無反応だろうと思ってたのに、まさかこんなに大きくなってるなんて…。
夏見の情欲を知り、急激に胸の鼓動が高まっていく。
それを悟られないように呼吸を抑えながら私は下着の隙間に手を差し入れた。
夏見のモノは、指先で触れただけでもわかるくらい熱くたぎっていた。
そっと握りこむと、手のひらいっぱいに焼け付くような熱と脈動が伝わってきた。
激しい心拍に襲われながらもそれを恐る恐る引っ張り出す。
恥ずかしくてとても直視することはできなかった。
わざとらしく顔を背けて視線をコンドームだけに集中させる。
初めて封を開けて手にしたコンドームは、オイルのようなものをまとっているのかベタベタしていて妙な甘い香りがした。
『わかるよ!』なんて豪語したものの、使い方は完璧にはわかってない。
友達や雑誌の体験談から得た知識だけを頼りに私は視線を逸らしたまま手探りでゴムをモノの先にあてがった。
そしてぎこちなく引き下ろしていく。
なんとか根本まで到達して、私はホッと胸を撫で下ろした。
「…これで、いいでしょっ…?」
間違ってないよね? 大丈夫だよねっ?
不安いっぱいに夏見を見上げると、夏見の手がポンポンと軽く私の頭を撫でた。
…褒めてもらえた…?
その悦びに体中が満ちてゾクゾクと感極まってしまう。
けれど、こんな単純に一喜一憂していたらいつまでも夏見のペースに振り回されっぱなしになってしまうと我に返って、とろけそうになっていた気持ちを引き締めた。
「なんか子供扱いされてるみたいなんだけどっ…」
高揚を押し殺して不平を漏らすと、夏見は柔らかく口元を緩めた。
優しくもあり生意気でもあるその微笑みに私の心はいともたやすく揺さぶられてしまう。
「撫でて欲しそうな顔してたから」
「えっ!? そんな顔してないよっ」
「してた。嬉しそうな顔も」
「しっ、してな…っ!」
夏見とは違って自分はそんなにも気持ちが表情に出やすいのかと動揺しながらも無理に強気になって否定していると、夏見がやんわりと私の肩を抱いて床へと押し倒した。
それがやっぱり子供をあやすような手つきに思えて私はますます悔しくなる。
「その顔は可愛くないよ」
「…っ、だって、夏見が落ち着きすぎててムカつくんだもん…っ」
「全く落ち着いてないけど」
「めちゃくちゃ落ち着きまくってるじゃんっ! 『好きです』って言ってくれたときはあんなに可愛かったのにっ…!」
「広瀬は、『欲しい』って言ってたときの顔が良かった」
「なっ…!! うっ、うるさいっ!」
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