▼ 第1話-01
「っふ…!ぁッあ…!くぅ、ううぅッ!」
「イイ声になってきたな。もっと喘げよ…っ下にいる2人に聞かせてやれよ…!」
貫かれるたび、痛みと恥辱と快感で身体が悲鳴を上げる。
涙を必死にこらえて歪む瞳で、私は目の前の男を睨み付ける。
──私の弟。
いや、弟になるはずだった男。
頭の中で思い描いていた幸せな家庭が音を立てて崩れ落ちる。
……どうして、
どうしてこんなことになってしまったんだろう──
* * * * *
物心ついたときから私には母親がいなかった。
でも全然悲しくなんてなかった。
お父さんが大切に大切に育ててくれたから。
厳しいけど、すっごく優しくて私のことを一番に考えてくれたお父さん。
そんなお父さんに恋人がいたと知ったのは去年のこと。
なんと5年も付き合っていたらしい。
「なんで今まで黙ってたのさっ」
そう怒ると、お父さんは申し訳なさそうに「戸惑わせてしまうと思ってな」と言った。
そんなことない。
むしろすっごく嬉しかった。
私の通っている学校で3年生の担任と国語の教師と生徒指導を務めているお父さん。
休み時間でも家に帰ってからも忙しなく働いているのを毎日目にしていた。
そんなお父さんにもちゃんと心休まる場所があったんだ。
それを知ってすごくホッとした。
…そして、私はすぐさまお父さんにこう告げた。
「ねぇ、私もその人に会ってみたい。だってもうすぐ私のお母さんになるんでしょ?」
私のお願いにお父さんは動揺して固まっちゃってたけど、それから数日後、顔を合わせるがてらみんなで外食しようという話が決まった。
・ ・ ・ ・ ・ ・
「………」
「なんだ柚希(ゆずき)。緊張してるのか?」
「だって…っこんなかしこまったとこなんて思わなかったんだもん…!」
「大げさだな。別に普通の所だろう」
…と、お父さんは言うけれど
お店に入ってすぐ巨大な水槽の中の巨大なカニに迎えられ、着物姿の気品溢れる店員さんに席まで案内してもらって、チラリと見たメニュー表には当たり前のようにステーキやらアワビやらという字が並んでいた。
私が今まで入ったことのある外食屋さんとは空気がぜんっぜん違うのは明らかだ。
軽ーくご飯を食べながら色々話せれば…とか言ってたくせに、なんなのこのお堅い雰囲気は!?
楽しく談笑するんじゃないのっ?
もういきなり込み入ったお話になっちゃうのっ!?
のん気にお茶を飲むお父さんの隣りでガチガチに緊張していると、誰かがパタパタと慌ただしくこちらに近づいてくる音が聞こえてきた。
「遅れてしまってごめんなさい…っ」
そう言って30代くらいのショートカットの女性が私達の席についた。
…この人がお父さんの…
私は無意識に目の前の女性を食い入るようにして見つめた。
「忙しかったのか?」
「いえ、あの…」
「ん?」
「こっ、こういう所に1人で入る勇気がなかなか出なくて…」
「…はぁ!?」
「だって!前言ったじゃないっこういう所は苦手だって…!それに、柚希ちゃんも来るっていうから余計緊張しちゃって…っ」
いきなり揉め始めた2人を見ているとたちまち緊張が解けていって、それと同時におかしさが込み上げて私は思わず吹き出してしまった。
そんな私につられてお父さんの恋人も気恥ずかしそうに笑みをこぼした。
「ごっごめんね…いきなりこんな調子で…」
「いえ、私もファミレスとかじゃないのっ?ってずっと緊張してました」
呆れるお父さんを尻目に2人で笑い合っていると、事前に注文していた料理が運ばれてきた。
色とりどりの料理に私は目を輝かせる。
お父さんの恋人も私みたいにウットリとした顔で料理に見入っていた。
堅物なお父さんのくせに、よくこんな可愛い人をゲットできたな。と心の中で思った。
声が柔らかくて、表情がくるくる変わって、初対面なのに緊張なんてすぐに飛んでっちゃう。
私は10分もしない内にその人のことが好きになった。
「えっと…改めまして、三井山 花野です。…本当は息子も来るはずだったんだけど、体調が悪いみたいで…」
「ええっ!息子さんいるんですかっ!?」
「うんっ。中学3年生だから…柚希ちゃんより2歳下かな?」
「へぇ〜っ…お父さんは会ったことあるの?」
「一回だけな。お前と違ってすごくシッカリしていたよ」
「どうせ私はシッカリしてませんよ〜っ」
「柚希ちゃん柚希ちゃんっ、こんなこと言ってるけど私といるときは柚希ちゃんの話しばっかりしてるのよ。会うたび柚希ちゃんの写メ見せてもらうのっ」
「花野っ!」
そんな照れくさい話しも聞かされつつ、初めての食事会は思ってたよりもずっとずっと楽しく和やかにすぎていった。
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