▼ 第2話‐03
…さてっ。
いつもの私ならここでしばらくウジウジくよくよと沈んでるところだけど、今日はそんな重たいことしてる暇なんてないもんね!
私は人目を気にしながらコソコソと体育倉庫を出て、急いで階段を駆け上がった。
脚にうまく力が入らないし頭もまだ少し痛いけど、気分は打って変わってウキウキと弾んでいた。
自作の万華鏡が入っているカバンを背負って、廊下を駆け抜ける。
…まだ待っててくれてるかな…?
たどり着いた理科室の前ではやる気持ちを抑えてゆっくり呼吸を整え、私はドアに手をかけた。
──ガラッ
「…遅くなってごめん…!」
椅子に座って作業をしていた夏見が顔を上げる。
相変わらず眠たそうな表情だ。
「お疲れ様」
「え゙っ? 何がっ?」
「セックス」
「そんなどストレートに言うな!!」
「……肉弾戦?」
「…うっわぁー…。もっとヤダ」
思わず、マッチョ同士が暑苦しく抱き合ってる姿を想像してしまいつつ夏見の隣りの椅子に腰かける。
そしてカバンを開いて2本の万華鏡を取り出した。
「はい。細かいところ雑だから、あんまジックリ見ないでね」
夏見が片方の万華鏡を手に取る。
けれど、外側の装飾ばかりを見て一向に中を覗こうとしない。
「…もしかして粗探ししてる?」
「うん」
「ぶっ叩いていいですか」
「…いや、でも綺麗にできてる」
「えっ、ほんとに!?」
「うん」
夏見に褒められた…!
テストで満点をとった以上の嬉しさが込み上げて、無意識に口元が緩む。
あんまりニヤニヤしすぎてしまわないように顔を引き締めて、私は控えめな声色で「ありがとう」と言った。
「あ。これ」
喜びをしみじみと噛み締めていると、ふと思い出したように夏見が机の上にあった変わった形状のカッターのようなものを私に手渡してきた。
「おぉっ、アクリルカッター!」
「切れ味悪いかもしれない」
「大丈夫大丈夫。この持ち方であってる?」
「あってる」
「よぉっし。じゃあ頑張って切りますか!」
再びカバンの中をあさってアクリルミラーを取り出し、早速カッターを切断線にあてがう。
けれど、気合を入れたものの隣りで夏見が万華鏡の中を見始めたせいで、とたんに集中力が散ってしまった。
「…ど…っ、どう…?」
「すごい。ちゃんと万華鏡になってる」
「そうっ? でもテープで作った鏡だからやっぱぼんやりしちゃってるよねぇ」
「うん」
「それにっ、色合いもグチャグチャだし…っ」
「別に。普通に綺麗だけど」
「……っ」
やばい。泣きそう。
夏見の言葉と、いつまでもクルクルと万華鏡を回しているその姿に、目の奥が熱くなって視界が滲んだ。
嬉しい。こんなにも共感してくれて、評価してもらえることなんて今までなかった。
自負心が満たされて、胸の内がゾクゾクと疼く。
それは、カズヤとのセックスでは得ることのない甘い快感だった。
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