中編 | ナノ


▼ 第3話‐06

「すっごい今更だけど、柚希って好きな男とかいるの?」

「へっ…!? そんなの…っ、さっき言ったでしょっ…!」

「違う。俺以外に」

「いないよ、宗太しか…っ」

「よかった」

「……っ!」

宗太の唇が首筋に触れたかと思うと、そこからチクリと鋭利な痛みが走った。

予期せぬ痛みに思わず身体が小さく跳ね上がる。

「…っな、にしてるのっ…?」

「内緒」

そう言うと宗太は、追求を先封じするように開きかけていた私の唇を唇で塞ぎとめた。

「…ん…っ! ふ、…っ」

それは、さっきとは違う柔らかで甘い口付けだった。

濡れた熱い唇の感触や、絡まる舌の動きに思考がみるみる内に翻弄されていく。

「っあ…!」

下着を引かれ、高まっていた熱情が更に熱を上げて体中を駆け巡った。

繋がりを待ちわびてドクドクと脈動する下半身の中心に彼の体温と圧迫感を感じて、私は無意識に息を飲み込んだ。

「んん…っ、く…ふ、んんぅっ…!!」

宗太と一つになっていく悦びと快感が洪水のように溢れて全身を満たしていく。

今までの性行為はただただ苦しいだけだった。

怒りをがむしゃらに発散するような宗太の暴動に、私は目を閉じて歯を食いしばって、事が終わるまで気持ちを殺し続けていた。

…でも今は違う。

私は心から宗太を求めている。

宗太は深く私を欲してくれている。

相手を狂おしいほどに想い、繋がり合うことがこんなにも気持ちいいものだったなんて知らなかった。


重ねた唇、私の頬を包む大きな手、深く優しく私の内側を探るように抽挿を繰り返す宗太の熱。

感覚の全てで宗太を受け容れ、襲い来る恍惚感に身体のあちこちを震わせながら私は宗太に身を委ねて悦楽の波に溺れた。

「…っ、なんでこんなに締め付けてくるの?」

「そっ…んなの、わかんないよ…っ!」

「それに、凄い濡れてるし」

「や、だ…っ! 言わないで…っ!」

「顔背けるの禁止。ちゃんと、感じてる顔見せて」

「ふぁ…っ、あ! …っく、ううぅっ…!」

宗太の言葉に羞恥心を駆られて思わず顔を背けると、それを咎めるように膣内の最奥を鋭く突かれ、顎を掴まれて顔を向き直された。

涙で歪む視界に、色気の濃くなった宗太の笑顔が映る。

そのほころんでいる表情には優しさと意地悪さが入り混じっていて、そんな彼に見詰められるとゾクゾクと胸の奥が震え上がってしまう。


「ごめん。柚希の反応可愛いからいじめたくなる」

「かっ、可愛くなんか…ないよ…っ!」

「可愛いよ。すぐムキになるところも、真っ赤になった顔も、ビクビク震えてる体も、全部」

「っあ! ぁ、っうぅぅ!」

徐々に深く荒々しくなっていく抽挿に膣内は快感を狂い咲かせて、甘美な痺れを体中に伝わらせていく。

そんな甘い疼きに合わせて宗太の言葉がスルリと胸の内側に入り込んで心の高揚を一層煽る。

悦楽が波のように何度も押し寄せて、私は自ら腰を浮かせて鳴き悶えた。

「気持ちいい?」

「んっ、んぁっ! あ…ッうん…っ!」

「もっと気持ちよくなって。俺でしか感じられなくなるぐらい」

「うあぁっ!あっ、うぅ…っううぅ!」

一段と激しく内壁を擦られ、深い所と打ち付けられ、快感が一気に溢れて全身を埋め尽くしていく。

私は悲鳴を上げそうになるのを必死に抑えて手の甲で口を塞いだ。

どんなに悦楽に思考が飲み込まれようとも、自分の声を部屋の外に漏らすわけにはいかないという理性は捨てきることが出来なかった。

「…っあ! ぃや…っ!」

声を出さないように半ば意地になって手の甲を噛んでいると、その手を突然宗太が奪い取った。

「だめっ…!声が…っ」

慌てて振り払おうとしたけれど、男の力で強引にベッドへと押し付けられてしまう。

でもこれだけは彼にされるがままにはなれない。

拘束から逃れようと掴まれている手を捻りながらもう片方の手で彼の肩口を押して抵抗を示す。


すると、宗太は床にずり落ちていた布団をおもむろに引き上げて、それを私たちの体に覆い被せた。

とたんに闇が濃くなって、宗太の呼吸の音が今までよりも大きく鮮明に耳に届いた。

「これなら声出せるだろ?」

「ふぇ…っ! あっ!あッ、あぁあ…っ!!」

鋭く突き上げられると同時にこぼしてしまった悲鳴は、部屋中へと拡散することなく布団の内側に篭って、うるさいぐらいに耳元で響き渡った。

声も水音も吐息も全て布団に包み込まれて、辺りの温度と湿度が瞬く間に高まっていく。

「あぁっ!や…っあ、あっ!」

容赦のなくなった打ち付けに堪えていた熱情が一気に解放されて体と思考が悦楽に溶かされていく。

肌を密着させた所からどちらのともつかない汗が滲む。

目まぐるしい快感と酸欠で、頭の先がビリビリと痺れる。

私たちを覆い隠す闇の中で、私は宗太の存在だけを感じ、決して離しはしないとキツく彼の身体を抱き締めて恍惚感に浸り尽くした。

「やあッあぁあ…っ!だめ、イッちゃう…っ!」

「いいよ、イッても」

「やだ…っ!一緒に、イきたい…っ!」

「…っそんなエロいセリフ、どこで覚えたんだよ…っ」

私の中で宗太のモノがビクッと脈打ったかと思うとその律動が更に加速して獰猛に媚肉を掻き荒し始めた。

限界を迫られ、下腹部がビクビクと幾度も跳ね上がる。

それでも私は宗太と共に悦びを得ることを望んで、絶頂を耐え続けた。

「…俺も、イきそうになってきた…っ」

「ふあぁあっ! …っん…!んんんッ!んうぅうーっ!」

グシャグシャになった髪を抱かれ、引き寄せられて唇が重ねられる。

獣のような荒い呼吸を混じわせ深く舌を絡ませ合いながら、私も両手で宗太の頬を包み込む。

「…ッはぁ、一緒に…っイこ? 柚希…っ」

「んぅっ…!ふあ…っあ! 宗、太…っ!あッ!ああぁっ!!」


絶え間なく快感が駆け巡って、彼のうなじに回した手にぎゅっと力を込める。

欲望の全てをぶつけるような猛撃に体の中枢が打ち震えて、疼きの臨界へと一気に突き上げられていく。

「ふあっあぁあっ!だめ、も…っ!あ…ッあああぁあっ!!」

下腹部がドクンッと大きく脈動して、煮えたぎった熱情が稲妻のように弾け散った。

恐悦がつま先から脳天へと突き抜けて体のあちこちがガクガクと痙攣を起こす。

肉欲に溺れ、真っ白になった意識の中で宗太の切迫した吐息と、熱くたぎった欲棒がビクビクッと震えるのを感じた。


「…はぁ…ッ、…あっつい…っ」

かすれた声でそう呟くと宗太は乱雑に布団を捲り上げた。

途端に火照った体が冷えた新鮮な空気に包まれて、思わず至福のため息が漏れる。


…頭がぼーっとして何も考えられない。

浮遊感と虚脱感に支配されて、ぐったりと仰向けになったまま動けない私の額の汗を宗太がティッシュで拭ってくれた。

「すっごい汗。ごめん、これじゃシャワー入った意味ないな」

「んー…」

半分夢見心地のまま曖昧に返事を返すと、宗太が私の横に寝転がってむぎゅっと私の体を抱き締めた。

「柚希の心音、めちゃくちゃ速くなってる」

「…宗太もね」

「……」

「……」

「…このまま寝ちゃ駄目だよ?」

「なんで?」

「ちゃんと自分の部屋で」

「やだ」

私の言葉を遮ってそう吐き捨てると、宗太は私の胸元に顔をうずめて、さらに強く私の体を抱き締めた。

「…もう…っ」

これから先も、こんな感じで宗太に振り回され続けるんだろうなぁ…と、幾多の場面でダダを捏ねられる風景がありありと浮かんでくる。

「わがままだなぁ」

「柚希が『わがまま言っていい』って言った」

「…はい。言いました」

わざとらしくため息をつきながらも、宗太の頭をポンポンと優しく撫でる。


反抗期真っ盛りで自分勝手で子供みたいな、私だけの問題児。

これからもっともっと、可愛がって甘やかして愛してあげる。


幼い母性を胸に灯しながら

いつの間にか寝ついた宗太の寝息に心を解きほぐされて、私も緩やかに眠りへと落ちていった。



* 終 *



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