▼ 第2話‐04
「く、ふ…ッうう…! ぁッ、あなたのこと、助けたいの…っ!!」
言ったってどうせまた嘲笑われるだけ。
そうして今まで煮詰めてきた心を全て吐き出すように私は必死に声を絞り出した。
けど、それでも玩具は唸りを上げたまま止まる気配すら見せない。
「…やっぱりな」
この答えでも満足してもらえないのかとグチャグチャになっている脳内で模索していると、恐ろしく冷めた声が蛇のようにスルリと頭の中に入ってきた。
──ヴヴヴヴヴーーーッッ!!!
「ッッ!? ヒッあアぁああァあぁぁーーーッ!!」
そのゾッとする声に一瞬時が止まったかのような感覚を感じた瞬間、恥部を覆う振動が突然数倍にも激しくなって私の身体に襲いかかった。
細胞を焼き焦がしていくような苛烈な悦虐が駆けずり回り、そして脳天を突き抜けていく。
「いやああぁァあッ!!あふッあぁああ!止めっ…あッああァうううぅッ!!」
空気までも震わす獰猛な振動のように頭の中もビリビリと痺れて、何度も意識が真っ白に弾け飛ぶ。
狂ったように手錠で繋がれた腕を振り乱して泣き叫んでいると、乱雑な力で髪をグイッと引かれ、強引に顔を上げさせられた。
「ここまでされてよくそんな事言えるな。本当はこういうことされるのが好きな変態なんじゃねーの?」
「あぁッ!あ、ア…ッち、ちが…っあぐッああぁあ!!」
「いい加減ウザいんだよ…上っ面だけの同情が…っ。何も知らねぇくせに、善人ぶってんじゃねーよ!!」
白濁した脳内に彼の怒声だけが響いてグラグラと揺れる。
霞む視界に映る彼の悪魔のような瞳と淫具から解放されたくて、私は喘ぎ混じりに『ごめんなさい』と何度も許しの言葉を連ねた。
「もう止めてぇぇッ!!ふァッあああぁあ!お願い…ぃッあァああッ!あっあぁあ!!」
「まだイけるだろ? これ以上馬鹿な事考えられなくなるまでぶっ壊れろよ」
「いやああアアぁあッ!!やらぁぁッお願ぃぃヒッああぁっ…!許し、てぇッ…あッあ、あああぁあッ!!」
どんなに許しを乞いても彼は玩具を止める様子を微塵も見せない。
酸欠と絶え間なく降りかかる絶頂の衝撃で激しいめまいが引き起こる。
濁流のように渦巻く脳内で、このまま本当に壊れてしまうんじゃないだろうかと意識が完全に燃え尽きようとしたその瞬間、
ハッと現実に呼び覚まされるようなチャイムの音が高々と鳴り響いた。
──ヴヴヴ…ヴ…ヴ……ッ
「ふあっ…!! ッは、あ…!ぁ…ッ」
予鈴に合わせて淫具がピタリとその動きを止める。
両手の拘束も解かれて、私はその場に力無く崩れ落ちた。
やっと解放されたはずなのに、体には振動の余韻が克明に残っていて快楽が消えきらない。
「今度はバイブも一緒にぶち込んでやるよ」
痙攣を繰り返しながら心臓と呼吸を落ち着かせようと深く肩を上下に揺らして深呼吸をしていると、彼の淡々とした声が頭上から降ってきた。
彼を見上げる気力すらない私は俯いたまま黙ってその言葉を胸に焼き付かせた。
「じゃあな、変態お姉ちゃん」
バタンと雑に閉められたドア。
遠のいていく足音。
「…はッ…はぁっ…ぅ、く…ッ!」
彼の気配が完全に消えたと同時に、体を支えていた腕の力が抜けて、私はグシャリと倒れ込んだ。
手首の真っ赤な痕が肉を焦がすような痛みと熱を発する。
頭も胸もあそこも、それと同じくらい痛く重く脈動していた。
だんだんとクリアになってきた脳内に、数十分間の出来事が走馬灯のように流れていく。
「…ッ…ふ…、うぅ…ッ」
…もう限界だ。
こんなの耐えられない。
…お父さんに、「前の生活に戻りたい」って伝えよう…。
「…ッく…う…っ」
私は壁に寄りかかりながら体を起こし、涙を拭いて部室を出た。
…今日はもう何もしたくない。
私はそのまま真っ直ぐ保健室へ向かって、風邪っぽいと適当な理由を付けて早退することを告げた。
・ ・ ・ ・ ・
空に広がる黒い雨雲は私の心をありありと映し出しているようだった。
鉛みたいに重い体を引きずって家路につく。
玄関に入ると、花野さんが慌てた様子でリビングから駆けてきた。
「学校から連絡があったんだけど…っ、大丈夫? 病院に行くっ?」
「………」
そう言い寄ってきた花野さんに目も合わせないで、私は黙って洗面所に向かった。
グチャグチャに汚れた下着を脱いで洗濯機に投げ入れて、洗濯の開始ボタンを押す。
カゴに取り込まれていた洗濯済みの下着類の中から自分のを取ってそれに履き替えて、私は目の前にあった洗面台の鏡にふと目を移した。
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