お薬の時間です | ナノ


▼ こんな所で‐05

「ここに手をついて。……腰を下ろして。もっと」

誘導に従って壁の手すりに両手をかけ、お尻を楓に突き出すように体を低くして脚を開く。

ふしだらな女豹のような姿勢に羞恥と情欲を掻き立てられて、不用意な吐息が漏れてしまう。

「……っあ……!」

突き出したお尻に触れる無骨な指先。

無意識なのか、それとも意識的になのか、いたずらに爪先で甘く皮膚を引っ掻かれながらスカートを捲られ、そして下着が下ろされていく。

布を取り払われたそこは触って確認する必要がないほどに淫らな涎を溢れさせて、楓の熱を待ち構えていた。

「……っ」

背後から聞こえるファスナーや布の擦れる音に光の胸の鼓動は加速し、下腹部はヒクヒクと弱い痙攣を続ける。

「っんあ!!」

さらけ出した秘部に押し当てられた固く熱い感触。

この上ない甘美な緊張が全身に走り、光はビクンッと大きく体を跳ね上がらせた。

「じゃあ……挿れますよ、光さん」

「──っあ、あ……!! ふあ、あぁああ……っ!!」

名前を呼ばれて頭の中が緩く痺れたと同時に下半身に狂おしい衝撃が駆け抜ける。

思わず崩れそうになる体を手すりにかけた手と震える脚でなんとか支えながら光は待ちわびた快感に歓喜の悲鳴を漏らした。

「ひッ……あ、あぁ……っ!! だ、めっ……今、動いちゃだめ……っ!」

せり上がる恐悦に身体が堪えきれず、光はとっさに楓の服の裾を掴んで静止を求める。

快楽に溺れて自分の淫らな声を辺りにまき散らすわけにはいかない。

かろうじて残っていた理性が、真っ白になりかけていた光の脳内に『ここは公園のトイレの中だ』と訴えかけて絶頂に歯止めをかける。

「どうしてですか? 気持ちよすぎるから?」

快感によって普段の気丈を崩された光は、その問いかけに恥じらいをもちながらも正直にコクリと頷いた。

「好きなだけ気持ちよくなっていいんですよ」

「……っだって……!」

「ここは滅多に人は来ないから気にしないで声を出してもいいんですよ。それに、僕ももっと光さんの声が聞きたいですし」

「……っ!」

自分の名を呼ぶ楓の声に再び体が反応して背筋を震わせてしまう光。

そこに更に追い打ちをかけようと、意地悪な笑みをたたえた楓が光の耳元に近づいて囁く。

「なんで今、動いてないのにビクッてしたんですか?」

「やっ……!」

「教えて下さい、光さん」

絶対に名前を言われると身構えていたはずなのに、それでも光の身体は我慢できずにビクビクと小さな痙攣を体の隅々に行き渡らせていく。

その素直な愛らしい反応に楓の下半身も思わずドクンッと荒立ってしまう。

「名前呼ばれるの好きなんですね」

「すっ……! 好きじゃ、なぃ……っ!」

「光さん」

「〜〜っ!!」

「ほら。光さん、って言うたび僕のをギューッて締め付けてくる」

クスクスと笑い声をこぼしながら楓は愛おしそうに光の下腹部を撫で、そして膨張しきった赤い肉芽を指先で捕えた。

突然襲い来た熱い疼きに光は一層激しく全身を震わせて妬けた吐息を弾ませる。

「昨日も僕に名前を呼ばれてこうなってたんですか?」

「や、やぁっ……!! そこ、弄っちゃ……っん、くうぅぅ!」

「ちゃんと答えて下さい」

溢れる愛液を絡ませて、快楽の芯であるその突起を楓は執拗に擦り続ける。

そこから何度も何度も絶頂を味わってきた光の身体はいともたやすくタガが外れ、快楽の坩堝へと呑み込まれていってしまう。

「ひっ……あ、あッううぅぅっ!だめ、もう……っ!!」

ガクガクと今にも折れてしまいそうなほど弱々しく震える脚。

子猫のように高く甘くなっていく声。

そんな光の反応から絶頂がもう寸前まできていると悟った楓は、とたんに指の動きを止めた。

「……ふ、ぇっ……?」

突然止んでしまった快感に、光は唾液の伝う口から間の抜けた声をこぼす。

「な……んでっ……?」

法悦を迎えそこねた身体を落ち着かせることなど到底できず、光は焼け焦げるほどに疼く下腹部をモジモジとよじらせて泣き声で楓に訴える。

強制的な快楽によってイクことへのためらいをも崩された光は、ただひたすらに楓から与えられる刺激を切望する淫らな雌へと成り変わっていた。

「教えてくれないと、イかせてあげないです」

「ひゃ……ッあ、うぅ……!」

決して陰核には触れず、その周辺をくすぐるように指を滑らせながら楓は静かに、光の頭の中に染み込ませるように問いかける。

「僕に名前呼ばれるの好き?」

「……っき……!」

楓の声ともどかしい刺激に背筋をゾクゾクと痺れさせながら光はついに観念して噛み締めていた唇を開いた。

「すき……っ、好き……! もっと、いっぱい言って……っ!!」

振り絞るような切なげな光の答えを聞き、楓は衝動的に光の体をぎゅうっとキツく抱きしめた。

「……っ本当に、可愛いですね光さんは」

「んっ、……ッうあ!! あ、あっ、あぁああああっ!」

熱っぽい囁き声に胸を打ち震わせたその瞬間、膣内で息を潜めていた楓の肉胴が激しく律動を始め、光は突然湧き起こった衝撃に思わず尻込みながら鳴き悶えた。

「あっ、ひあッ!!あ、んんっんうぅぅーっ!!」

身をよじらせて逃げようとする光の腰を抱いて捕え、楓は容赦なく己の欲望で光の媚肉を抉り、擦り付けて奥まで深々と突き刺す。

そんなあまりに唐突で荒々しい快感に光は、体に心が追い付かないまま絶頂を迎えさせられて、ゾクゾクッと駆け上がる疼きに従って困惑しながらも全身を震い上がらせた。

「はあっ、は、ぁ……ッ!!あぁっ!ん……っくぅううう!!」

キツく収縮を繰り返して悶える膣内を楓の熱塊はなおも猛威を奮って侵し続ける。

切っ先で最奥を突きあげられるたびに意識が飛んでしまいそうなほどの狂おしい恐悦が下腹部から脳天に突き抜けていく。

けれど、それでも光は自分の声を辺りに響かせたくないという自制を捨てきることはできず、非力ながらも必死に声を抑え続けていた。

気持ちいいのに、このまま快楽に溺れつくしてしまいたいのに

プライドも何もかも脱ぎ去って楓だけを求めたいのに

ここが野外であるという羞恥と不安が否が応でも光の心を抑え込む。

バスの中からずっとずっと苦しめられ続けていたそのジレンマに光は、泣き出してしまいたいくらいに倦み疲れきっていた。

「っく、ううう……っ!! もっ、もぉ……、や……あぁっ!」

「ん? もう立ってられないですか?」

背後からかけられる楓の余裕たっぷりの小生意気な言葉に光は弱々しく首を横に振る。

「もぉっ、声ガマンするの、やなのぉ……っ! にゃんで、こんな所でしなきゃなんないのひゃっ……!!」

「……っ」

呂律の回っていない光のワガママに再び心を打ち抜かれ、楓は先ほどよりも強く光の体を抱きしめてグリグリと背中に頬ずりをした。

「ごめん。ごめんなさい。お外で恥ずかしがりながら感じてる光さんが見たいなんて、意地悪なこと考えてた僕は馬鹿です。ゲス野郎です。今度からはちゃんとお家の中で襲います」


でも可愛い光さんをたくさん見れて良かった。

背中に顔をうずめてそうしみじみと呟くと、楓は体を起こして一呼吸ついた。

「じゃあ早く光さんを楽にさせるためにパパッとイきますので。頑張って耐えて下さいね」

「へっ……」

投げかけられた言葉に反射的にゾワッと背筋が騒ぎ立つ。

──そして、

「ッひああああぁあ!!あぁあっ!!ひやッあ、あああ!うああぁああっ!!」

想像を遥かに上回る激震が光の全身を貫き渡った。

たちまち脳内は真っ白に弾け、声を抑えるという理性もあっという間にその白い霧の中へと呑み込まれていく。

無機質なトイレの中に、光の悲鳴とグジュッグジュッという激しい水音があられもなく反響し続けた。

「あああっんあッあぁあ!きゃうぅうっ!!」

固いコンクリートの壁に爪を立て、頭を擦り付けながら光は止まない絶頂感に鳴き震える。

引きちぎらんばかりの膣の圧迫に襲われ、楓も急速に限界を迫られていく。

「……ッく、……イクよ、光さん……っ」

「ひッ……!!あ、ああぁっ!うぅぅぅぅーーっ!!」

「──……ッ!!」

ビクッと大きな痙攣と同時に胎内へと放たれた熱い情欲。

その熱はみるみるうちに子宮から全身へと広がり、体の芯から溶かされていくような熱く甘美な恍惚感が光を包み込んでいく。

それは今までの苦労が何もかも帳消しになるほどの甘い甘い至福の体感だった。


「……はあぁぁっ……ふにゃー……っ」

蕩けた溜息をもらしながら光はズルズルとその場に崩れ落ちる。

それを支えながら楓も腰を下ろして後ろから光を抱き留めた。

「大丈夫かにゃ?」

口調をマネた楓に怒る気配も見せず、光は「ふにゅ」と小さく頷く。

その無防備で愛くるしい光の言動にまたしても血液が下半身へと集まってしまう。

……だが、いつまでも盛っている場合ではない。


楓はぐるりと辺りを見渡す。

ベビーベッドには大量の荷物。

己の腕の中にいる光はとても立って歩ける状態ではなく

楓自身も長時間の買い物と性交によって足腰はフラフラのガクガク。


……うん。……どうやって帰ろう、かにゃ?

と、自分に問いかけてみても最適な答えなど見つかるわけもなく。

射精後の倦怠感よりも遥かに重い絶望感に撃沈されながら、

楓は『外で光をいぢめてみよう』なんて企てたことを改めて心の底から反省したのであった。




第3話‐終



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