お正月レポート


 1月2日。天気晴れ。昼下がりの不二宅に珍しい来訪者。
「明けましておめでとうございます、不二先輩」
「越前……うん、今年もよろしくね。年始の挨拶まわり? 感心だね」
「うぃっス。それと先輩に冬休みの宿題手伝って貰えないかなーと思って。レポートなんスけど?」
「僕でよければ。タイトルは?」


『日本のお正月』


 不二は快く越前を招き入れ、リビングの和室へと案内した。
「今ね、裕太の宿題もみてたんだ」
 暖房のきいた部屋の中央には大きなこたつ。そして帰省中の不二の弟・裕太がくつろいでいた。
「え、越前、やっぱり来やがったか」
 越前は不二のお気に入りの後輩。裕太も以前都大会で対戦し完敗……一目を置いてはいる。が、密かに兄に恋心を抱いている裕太にとって今のこの状況は歓迎し難いものである。
「やっぱり、って?」
「実は昨日も来てみたんス。けど、先輩は誰かさんと初日の出見に行ってて留守だったんで、出直したっス」
 昨日……。
 元旦は手塚と……(//////)。
「手塚部長も居なくて、仕方なく乾先輩んトコ行ったんすけど、あの人の説明マニアック過ぎて」
 そう言って不二に何やら書き込んだメモを見せる。歌留多、注連飾、双六、書き初め、初夢……。
「……かるた、しめかざり、すごろく、か。帰国子女の越前には難しいかもね?」
「暗号みたいっス。不二先輩、俺にも分かるように教えてくれません?」
「まかせて。裕太も手伝ってくれるよね?」
「あ、あぁ」
 せっかくの兄との時間を奪われるのは癪だが、この越前と二人きりにさせるのはもっと癪だ。裕太は渋々承諾する。
「サンキュー不二先輩♪」
 チュッ☆ 越前は不二に抱きつき軽やかにキスをする。マウス・ツー・マウスで・・・!
「、ん……。こらぁ越前、ここは日本だよ」
「ソ・ウ・デ・シ・タ」
 へへっと笑い名残惜しそうに離れる越前にお咎めはなし。不二が寛容なのか。それとも。
(兄貴、まさか越前と……!?)
 越前が米国育ちだろうが何だろうが、ここは日本。少なくとも不二家には日常にキスをする習わしはない。目の前で他人‥しかも男…それも去年まで小学生だったガキに‥‥明らかに受けで……キスを許した憧れの実兄に裕太は困惑の色を隠せない。
「ねえ。部屋移動だってさ、不二先輩の弟サン」
 そこへ越前の挑発的なこの態度。
(いや、兄貴はゲイじゃないもんな。越前が邪なだけだ!)
 自分が実の兄に抱いている感情は邪じゃないのかというツッコミは棚に放り上げ、とにかく愛する兄を守る為、裕太は越前の宿題にとことん付き合う事にした。


 廊下に出ると不二の姉・由美子が居た。
「いらっしゃい、越前くん。はい。お年玉よ」
「ども、ありがとっス」
 嬉しそうにポチ袋を受け取る。こういう所は子供らしくて微笑ましい。
「よかったね、越前。さっそくレポートが一つ埋まるじゃない」
 頷いて不二の言葉通り用紙に記していく。『……本来は神々への供物の事をいった』と。
「そういや…姉貴、俺のお年玉は?」
「ああ。ちゃ〜んと銀行に振込んどいたわよ」
 姉弟のやり取りを聞きながら越前はレポートを続ける。『……今日では子供に金品を贈る事をいい、銀行振込みなどで…』…?…越前、それ違うし。


 さておき、次に越前が案内されたのは玄関。
「ほら、あれが注連飾だよ」
「あの縄のヤツっスね」
「そう、魔除けの為に入り口に張ってあるんだよ」
「あんまり効果ないみてーだけどな」
 越前が家に入れた時点で、とでも言いたげに、今度は裕太が挑発的な態度をとる。
「そーっスね」
 越前は意味深な視線を裕太、そして不二にも送る。
「ん、何?」
「ちょっと、ね。不二先輩みたいな兄貴がいて、弟サンは幸せだなーって、ね」
 感動的な台詞だよ。あの鼻の先嗤いがオプションについてなければ。弟を強調してなければ。
「裕太、行くよ?」
「……お、おう」
「今度は何スか?」
「せっかく1月2日だからね。書き初めだよ」
「へぇー楽しみ」
 裕太も二人の後に続いた。


 書き初めとは、新年に初めて文字を書く行事。
「……まんまっスね。何書いたらいいんスか?」
「何でもいいんだよ。正月に因んだ事でも今年の抱負でも」
 徐に書き始める越前と裕太。
「書きづらいっス」
「そっか、二人ともサウスポーだもんね。裕太は書道習ってたから大丈夫だけど。あ、でも越前って右でも……」
「筆は苦手っス」
「そうだよね、じゃあ」
 不二は越前の右手に自らの手を添える。
「何て書きたい?」

『攻めあるのみ』

 越前らしいね、不二はくすっと微笑うと、ゆっくり手を動かす。
(あ、兄貴〜ぃ。密着し過ぎだっての! くっそ〜越前の奴〜〜)
 しかし、恨めしそうな裕太を尻目に越前はまさに攻めあるのみ。
「先輩って、いい匂い」
「ん?」
「手もすごくキレイ」
 書き終え筆を置いたと同時に、越前は不二の右手の甲に頬擦りし、仕上げにキスを落とす。
「おかげで最高の出来栄えっス」
 だから。ここは。日本。
 ・・・無駄か。


 その後は由美子も加わり、カルタ取り、双六、福笑い等々、楽しく盛り上がった。越前の過剰なスキンシップは相変わらずだったが。それでも当の不二がそれ程気にしていないし、由美子も「意外と甘えん坊さんね♪」の一言で片付けてしまうし。裕太も黙認するしかなかった。
 そして、正月遊びの締め括りは羽根つき。
 越前と裕太はテニス同様思う存分戦った。
「お疲れ様。二人共すごく楽しそうだったね」
 まあ、確かに。
 夕食はこたつを囲んでのお節料理。途中、越前は箸を休めると、改まって呟いた。
「不二先輩。それからおばさんもお姉さんも弟……いや裕太サンも、今日はどうもありがとうっス。俺、一人っ子だから兄弟出来たみたいで楽しかったっス」
「越前……」
「あらあら、こちらこそ、息子が増えて嬉しかったわ」
「そうよ、越前くん、泊まっていきなさいよ。明日の朝はお雑煮作ってあげるわ」
「うん、そうしなよ。レポートも完璧になるし、ねっ裕太」
「ま、まあな」
 不二の弟ではなく『裕太』と名前でお礼を言われたのは正直、嬉しい。
「じゃあ、お言葉に甘えて……」
 この時、微かに不敵な笑みを浮かべた越前に気付いてさえいれば……。


 その夜。客用の和室に布団を並べて貰い、越前は頗る上機嫌。
「先輩と同じ部屋で寝れるなんて夢みたいっス」
「僕の部屋のベッドじゃ狭いしね」
「……それでもよかったのに」
「うん? そうだ、夢といえば、今日の夜見るのが“初夢”なんだよ」
「レポートの続きっスか? そういや乾先輩のメモにも、」
「これかな? 一フジ、二タカ、三ナスビ」
「不二先輩と河村先輩と……なすび?」
「ふふっ、じゃなくて、富士山と鳥の鷹となすびだよ。初夢にこれを見るとすごく縁起がいいんだって」
「ふーん。俺は富士山の夢より不二先輩の方がいいけどね」
「初夢の内容で一年の運勢を占うからね。吉夢を見る為に宝船の絵を枕の下に入れたりもするんだよ」
 ここには準備してないけれど、と不二は付け加える。
「宝船……ねぇ。不二先輩って物知りだね。実は俺もう一つだけレポートしたい事あるんスよ」
 先程の乾メモからある単語を指差し、ニヤリと不二を見つめる。

『姫はじめ』

 そこにはそう記されてあった。
 さすがの不二も今度ばかりは動揺してしまう。
「さ、さあ? 僕は知らないな……、」
「そっスか、俺ちゃんと調べてきたから大丈夫。実践で教えてあげますよ……センパイ」
「やだ……えちぜっ、ん……ぅ!?」
 不意打ちに抵抗出来ず、不二は何か液体を口に含んだ越前に接吻けられる。
 ごくん。
 口移しで強引に流し込まれ咳込む不二。唇から零れ落ち顎を伝う液体が煽情的である。
「、ハァ、何飲ませたのっ!?」
「……お屠蘇」
「お、とそ?」
 延命長寿を願い正月に飲む薬酒・・・つまり、酒。


 一方、その頃の裕太。
(あー眠れねぇ。勢いで泊めちまったけど、越前の野郎〜兄貴の寝込み襲ったりしてねぇだろうな!?)
 やはり心配になり、様子を見に行く事にした。
 客間の前の廊下に到着。部屋の中は暗い。
(もう、寝ちまったのか……?)
 取り越し苦労だったか、と自室へ戻ろうとした時、愛しい兄の苦しげな声が聞こえた気がした。
(ま……まさか!?)
 恐る恐る襖に手を掛け隙間から覗くと、
「……ン、ぁは、っんぅ……越前っ、ぃゃぁ……ぁ!」
「いや?……な訳ないよね。先輩、やらしーコト大好きだもんね」
「……ちが、ぁん」
 そこで裕太が見たモノは、越前に意地悪く喘がされている最愛の兄のあられもない姿。
 自制心の強い不二がここまで乱れているのは酒のせいなのだが、もちろん裕太の知る所ではない。目の前で他人‥しかも男…それも去年まで小学生だったガキに‥‥明らかに受けで……。
(あ、悪夢だ・・・)
 不覚にも二人の行為に欲情してしまい、その場を動けなくなった裕太は、そのまま夜を明かす羽目となるのだった。


 布団の上では仰向けに寝た越前が片足を上げピンと伸ばし不二を誘う。
「ホラ、先輩……俺の足に抱きついて」
「やぁ、そんな……ぁン!」
 僅かな羞恥心から拒もうとする不二を引き寄せた。
「いい思いしたいっしょ? そう、俺の上に横向きに腰かけて……自分で挿れるんだよ」
 身体の火照りがおさまらない不二は、慣れない行為に戸惑いながらも越前に従う。
「く、ふっ、ぅん、っはぁ、ン、深ぁ、ぃ……」
「すっご、いぃ、締め付けっ、……センパイ、最っ高……っぅ!」

 このおめでたい体位は江戸四十八手の一つ『宝船』。宝船が帆をあげて港に入る姿に似ている事から名付けられた。

 裕太は夢現でその宝船を見た・・・。


「ねぇ、結構楽しいね……日本のお正月!」


 END


◇あとがき◇

 ちょっと時季外れで申し訳ナイ。
 お正月らしいお正月を過ごす機会になかなか恵まれない悠人の憧れがつまったお話でーす(笑)
 年下に優しいフジコに、後輩の特権を駆使してハメちゃうリョマ♪&フクザツ裕太……なんか好きだ。
 しかし。またエロをオチに使ってしまいました。ま、無礼講ってコトで(^^)ι


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