「俺も男だし実沙季も男だ。しかも俺は超絶イケメンで金もある。女なんて選び放題だぜ。それでもやっぱり実沙季がイイんだよ。よくわかんねーけど、この気持ちはどうすることも出来ねぇんだ。一緒に暮らせることに、俺も、玖斗も偵之も喜んでる。お前のメシが食えて、中坊のガキみてぇにはしゃいでる自分がいんだよ。もうこれは立派な恋だ。いい年した男が三人揃ってお前の女装姿に恋して、更にはお前自身にも恋してんだよ。
なあ実沙季、遠慮しないで全部見せてくれ。家でも自由に女の格好していい。ミサの動画撮りたかったら、どんどん撮っていい。俺らはお前の邪魔をしないし、奇異な目でも見ない。キッチンスタジオで撮影したいからバイトするって晃季さんに言ったんだろ?そんな事はしなくていいんだ。ウチでいくらでもやればいいよ。まあ、お袋には内緒にしてるけどな」

最後はウィンクしておどけて見せた志尚の言葉で、実沙季は大変なことになってしまったと気付いた。
この三兄弟は皆、自分に恋をしているのだ。
家族となるはずだったのに、そこに恋が加わってしまった。三兄弟から四人兄弟になるのではない。三兄弟に愛されるお姫様という関係になってしまうのだ。

それぞれに魅力がある三人の美男子から愛されるなんて、実沙季はどうしたらいいのか判らない。

「ぼ、ぼく…まだ、そんなみなさんを好きには…」
「解ってるよ。俺らをそういう目で見てねーことは解ってるし、お前が決めることだ。気楽に俺らに愛されてりゃいいんだ」

もう一度手にキスをされた。志尚はなんだか外国人のようにスキンシップが激しい。そんなことをされてはドキドキしてしまうに決まってる。

困って俯くと、ゆっくりと手を離し、頭を撫でられた。そして椅子を引いて元の位置に戻り、「そーいうことだから」と、食事を再開する。

「つまりは、私たちはもう知っているし、その事に嫌悪感は抱いていない。ということだよ。だから、実沙季くんは好きなときに、好きなように女装していいんだ。まあ、母さんはビックリしてしまうだろうから、母さんには内緒だけどね」

偵之にも頭を撫でられる。玖斗も「そーだよー。簡単に言うと、僕らはみーちゃんの味方ってこと!」と明るく言い、ハンバーグを口に含んだ。

「あの、じゃあ、僕は…このおうちで、ミサの格好をしても、い、いいんですか?気持ちわるくないですか?」
「おいおいキモいわけねーだろ。寧ろ大歓迎だ。ミサの格好してメシ作ったっていいんだぜ」
「ははは、何日も部屋に籠って風呂にも入らず髭も伸ばしっぱなしになる志尚に比べたら、全然気持ち悪くないよ。可愛いし、有難い」
「そーそー、さだにぃちゃんの言う通りだネ〜!」
「おい玖斗、てめーのハンバーグ全部食っちまうぞ」

驚いた。
何だろう、この短時間で物凄く精神的にやられた気がする。
女装趣味がバレていて、更に受け入れられてその上好きだと言われた。
三人の美形に、同時に、だ。
もしかしたら玖斗はこの時を待っていたのかもしれない。
晃季も晴子もいない、兄弟だけの時間を待っていたんだ。だからあのタイミングでこの話題を出した。

『玖斗さんだけじゃない。偵之さんも志尚さんも、僕に話したかったのかも…そうだよね、こういうことは普通、はやくすっきりしたいよね。でも、すごいびっくりした。びっくりしたけど、嫌われてないみたいで、良かった…』


その後は、楽しく食事が出来たと思う。
何も隠し事がなくなったせいか、いつもより会話がスムーズに出来た。動画撮影の裏話や、いつも服を買っているお店の話、一葉と双葉の話。色々なことを語ったと思う。
三人は心底楽しそうにそれを聞いてくれた。
実沙季に気を遣ってではない。本心で彼らは実沙季と向き合ってくれたのだ。
だから、実沙季は見せることにした。自分のもう一つの姿を。

***

食事を終えて片付けた後、実沙季は再び女の子の格好をした。今日で二度目だ。

今度は袖が大きなフリルになっている白いノースリーブシャツに、デイジー柄の黒のミニスカート。シャツの下には同じ白色のキャミソールを着た。
下着も勿論、女性物。清楚な水色の物を選んだ。
前髪はサクランボのヘアピンで止めて、メイクもいつもより少し気合いを入れる。アイラインを太めに引いてみた。

鏡を見ると、誰もが認める美少女がそこに居た。
実沙季と違っておどおどと自信無さげな表情ではない。アイドルのように完璧な笑顔を浮かべ、チャームポイントである口角をくっと上げている。
口がハート形になる健康的な笑みを作ると、自分の顔なのに、可愛いなあと見惚れてしまう。

自分なのに自分ではない。
女の子の姿になると、実沙季はいつもよりも強い自分になれる気がする。

「もう大丈夫です」

実沙季の部屋の外で待っている三人に声をかけた。
おそるおそるといった感じでゆっくりとドアが開くが、実沙季の姿を見た瞬間、後半はバーン!と勢い良く開いた。

思わず驚いて後ずさりしてしまう。
そして玖斗の、

「カーワーイーイー!!!」

という叫び声と、情熱的なハグ。