先輩、たかちゃん、俺の注文が決まると、先輩は自分の親衛隊を呼んで、メニューを指して伝えた。うちの食堂は典型的なタイプで、カウンターに行って食券を渡す。その役目を親衛隊員にさせてるってわけ。
そのくらい自分でやれよって思うけど、白雪姫の小人たちは白雪姫の為に仕事をしたいのだ。

「ところで先輩、何処かに行かれてたんですか?杉とは無縁ってことは、海外とか?」

そう質問してみると、先輩は「あ!」と何か思い出したかのように声を上げた。

「そうそう、俺の家はドイツに城を持っているんだけどね、そこに行っていたんだ。別荘みたいなものだよ」
「城!?」

はあ!?城って言いました?ドイツの城ってあの城ですか?ドイツだから、ノイシュヴァンシュタイン城とかそんなんですか?
は?そんなの、日本人が持てるわけ?

「ああ、城と行っても小さな古城だよ。そんな自慢するようなものじゃない。ほら、鷹臣に見せたことがあるだろ?去年の夏休みに行ったときの写メを見せた」

小さな古城と言われても庶民からしたら次元がおかしいんですよ。

「覚えてるに決まってるだろ?雅、ブリオーニのスーツ着てたよな?可愛かったぜ」
「ふふ、ありがとう。それで、その一棟を君にプレゼントしようと思うんだ。それが鷹臣への土産だよ」

父さんを説得するのに苦労したさ。そう笑う先輩はおかしい。え、一棟?一棟ってそのお城の事?は?

「へぇ…どんなの?」
「うん、これ。分かるかな?」

おい!たかちゃん城だぞ城!何普通にしてんだよ!先輩もたかちゃんの腕に絡みつきながらスマホ出してるし。は!?そんな普通なの?

…で、見たら普通じゃありませんでした。
よく分からないけど、上空から撮ったそのお城の画像が表示されてて「これだよ」と指された部分は、敷地内の隅…中心の宮殿?からちょっと離れた所にある塔だ。
おかしい。小さな古城と言っていたが、綺麗だしでかいですよ。森に囲まれた石造りのそれはディズニー映画に出てきそうで、本当、白雪先輩は白雪姫だなあ、なんて思った。

「この塔は鷹臣専用だよ。ここの扉の鍵を持ってきたんだ、後で受け取って欲しい。丁度湖とツークシュピッツェ山が見える場所なんだよ。早く外出許可出るといいね。そしたら、一緒にドイツへ行ってこの城で暮らそう。毎日俺と君、二人だけだ」
「ああ、俺も早く雅と二人っきりになって、人目も気にせず愛し合いたい」

そう耳元で囁き、先輩の唇へ軽くキスをした。
おい、全然人目気にしてねーじゃんかよ!オレの目の前で!
新入生の男の子達がわ!っと騒ぎ「キスした!キスした!」「すげー、芸能人みたい」なんてヒソヒソと騒いでる。対して親衛隊共は、ピクリと眉を動かすだけで騒いだりはしない。
うん、普通は騒ぎますよねー。男と男が人前でキスしてんだから。


因みにたかちゃんの外出許可って言うのは、文字通り、彼は外出禁止にされています。
彼は生まれた時から体が大きく、日本人離れな発育を遂げているらしい。身長もそうだけど、筋肉の発達や体の厚みが欧米人並。だから小学生にして、中学三年生並の体格をしていたらしい。オレは実際見たわけじゃないから分からないんだけどね。

そんな体格でこんな性格だから、絡まれるのは当たり前だし、喧嘩が強いのも当たり前。子供のくせに一丁前に悪の仲間入りをしやがった。
大和グループ一族だというのに、問題起こしまくり、補導経験も有りときたら、親なら自分の息子を監視するために自分の学校に入れるわな。
だからたかちゃんはお盆休みと正月休み。あとは家の行事以外で、このF市から出ることは禁止されている。幸い、駅前はそれなりに栄えている。デパートもあるし商店街だってあるし映画館や、ラウンドワンだってあるから、そこそこ娯楽には困らない。
なんて言っても、休日は密かに都心の方に行ったりしてるけどね。嗣彦くん家の車で。

バレない範囲内でうまーく抜け出してるけど…まあ、海外は流石に無理だろうな。早く外出許可が降りるといいんだけど……絶対無理だと思う。

たかちゃんの成績は酷いもんだから。

白雪先輩用の鶏のもも肉のバルサミコソースのワンプレートランチ、たかちゃんのメキシカンライスセット、オレの稲庭うどん定食か届いた。
カフェプレートみたいなおしゃれなカトラリーが似合うたかちゃんと先輩は、綺麗な所作で優雅に食事をする。
流石たかちゃん。がさつでもお坊ちゃまだわ。

「そういやリーチ、来月実力テストあんだろ?お前、今のうちに勉強しなくていいのかよ?」
「え?オレはもう既にちゃんと勉強してるし。たかちゃんでしょ、勉強必要なのは」
「は?馬鹿じゃねーの。俺にそれが必要だと思ってんのか?」
「いや、思ってないっす」

嘘です。本当は思ってます。
でも、たかちゃんにとっては勉学は無駄な事なので、それ以上は何も言わない。
どんなにサボっても、どんなにテストの点数が悪くても、彼は進級するし、将来も約束されている。大和グループがあるし理事長の息子だから。
彼はこの学校で何をしたとしても絶対的な安全を持っているのだ。