熱の条件 | ナノ



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−男子校ですが、抵抗は無かったんですか?
「ありません。鳳では、女の子とのトラブルがあったので、今度の学校はそういうのがない、伸び伸びとしたところがいいな、と思って選びました。それと、実際に見学してみて、思ったより田舎じゃなかったんで(笑)」
−なるほど(笑)三島くんが大和を見学しに来ていたのは知りませんでした。三島くんみたいな人が来ていたら、一気に噂になるんですよ。イケメンが来たって
「アハハハ(笑)僕が見学に来たのは冬休みだったので、あまり生徒が居なかったんだと思います。学校も綺麗だし、寮も綺麗だし、駅前も思っていたより栄えていたし、即決めました。
それに、全寮制って憧れだったんです」
−憧れというと?
「よく、漫画で全寮制の学校が出てくるじゃないですか。それで次々と面白いトラブルが発生する。そういうのに小さい頃から憧れていました。だから、何か面白い事が起こるんじゃないかな?と(笑)」
−そうですか。では、三島くんに楽しんでもらえるようなトラブルを用意したいと思います(笑)
「期待してます(笑)」
−大和生についてはどうですか?
「そうですね、綺麗な人やカッコイイ人が多いですね。あと、みんな個性的です。楽しい方ばかりだと思います。それと、結構恋愛を楽しまれてて驚きました(笑)」
−確かに個性は強いと思います(笑)三島くんは、恋愛はどうですか?
「大和でですか?えっと……善処します(笑)」
−ですよね(笑)では次に…




在り来たりなインタビューは続く。
これの何が問題なのか判らず、鴻一は高月を見上げると、彼は「大した事ではないと思いますが」と前置きした。

「松下は去年の七月に、三島から白いちごのマカロンをプレゼントされています。
店名は覚えていないようですが、わざわざ遠くまで言って買ってきてくれたのが嬉しかったから大切に食べたそうです。
調べたところ、その白いちごのマカロンは、"ここ、F市駅前のアトレの中にある、洋菓子店しか出していません。"そこにしか売っていないものでした」
「……」

コントローラーへと伸ばしていた手が止まる。
記事を読むと、アキラは冬休みに初めて大和がある、このF市に来たように読めるのだが。
だってそうだ。七月の彼はまだチャラ男の彼だ。

「記事では端折られていますが、冬休みに初めてF市に来たと言っていたそうです。レコーダーが残っています」
「その音声は?」
「データがタブレットに入っています。お時間があるときに聞いてください」

鴻一の指先がピクピクと痙攣した。彼の予感は、外れてはいないのかもしれない。

「高月くん。三島くんのおばあさまは、八月に容態が悪化したのは間違いないんだよな?そして松下さんとは九月に別れている。それから転校を考えた…」
「はい」
「三島くんは七月のいつ、F市に来たんだ。それをちゃんと調べなさい」
「かしこまりました」

嘘偽りない人間が、一つだけついた嘘。
鴻一は、タブレットに写っている爽やかな笑顔の若者を見つめ続けた。