熱の条件 | ナノ






アキラは学ランを着て、廊下を足早に歩いた。校舎に入る時は制服を着なければならない。なんて校則が煩わしいと苛立つくらい、今のアキラは急いでいる。
すれ違う部活中の生徒に声をかけられるが、片手を上げて微笑するだけにし、立ち止まることはしなかった。
長い脚をこれでもかと伸ばし、大股である部屋へ向かう。競歩のような速さなため、前髪が少し乱れたが直すこともせずに突き進む。
渡り廊下を通り、階段を駆け上がり、ぶつかりそうになった生徒に謝りながら角を曲がって狭くて小さな部屋へ。

−ガラッ。

ノックもせずにいきなり戸を開けた。


最初に目に入ったのは、十人ほどが使える長テーブルとパイプ椅子。
そのテーブルを中心に、左右の壁には無数の本や冊子で埋められた棚が置かれている。くすんでいてほこりっぽい棚が狭い部屋を更に狭めているようだ。
テーブルの向こう側、部屋の一番奥は文芸部部長用のデスク。その後ろは窓とベランダへ続く扉。

そして、窓を背にし、部長用のデスクでまぐわう人影が二つ。

「あーあ、冬弥がデカい声出すからバレちゃったな」
「あっ、ぁあっ、ふぁ、あん…」

長い髪を束ねて一つに縛っている男は、意地悪そうに笑うと、自分の下で喘いでいる少年の腰を掴み直した。そしてぐん!と突き上げ、更に泣かせる。

「ぁあ!う、んんっ…!」
「へえ、萎えないのか。とんだ淫乱に育ったものだ」

男は少年に微笑すると、アキラの方を見て口角を上げた。

「……」

アキラはその男に対し、呆れた視線を送る。

端正な顔をしており、美形というより、男前と言った方が似合う。
鷹臣のような濃さを感じる男臭さと色気を持っており、乱れたシャツから覗く胸板は厚く、肉の香りを放っているように見える。
いくつか垂れた黒髪が顔や首筋に影を作り、男のほの暗い禁忌的なエロティシズムを醸し出している。
その男に尻を差し出すようにデスクに上半身を預けて泣いている少年は、冬弥と呼ばれたから白鳥冬弥本人なのだろう。乱れた前髪が邪魔をして顔がよく見えないが、小鼻が小さい美しい鼻が見える。前を寛げてるだけの男に対し、彼は全裸だ。
そして、白鳥を犯しているこの色香を放つ男は、アキラの友人、貫地谷鐐平である。

「エグっ」
「三島くんもどうだ?こういうのに、興味がないわけじゃないんだろ?」
「ぁん!あぁ…りょ、へ、さま…それは、嫌、ゃめて…!」
「何で?三島くんは冬弥の好きなイケメンだろ。スマートだし、モデルみたいな奴だ。そんな奴がタイプなんじゃないのか?どうなんだ。三島くんの、挿れてほしかったりするんだろ?」
『うわー、想像以上』

嫌だと泣く白鳥に対し、鐐平は楽しそうに腰を揺すった。白鳥が嫌だやめてと涙を流す度に、鐐平の興奮度が増すように見える。

『こいつはSだろうって思ってたけど、結構マジモンじゃねーか』

アキラはそんな鐐平の顔に驚きつつも、パイプ椅子を引き、そこに座って冷静に「終わるまで待ってる」と片手を上げて告げた。

「冬弥、三島くん、終わるまで帰ってくれないらしいぞ。頑張って僕をイカせて、お前もイッて終わらせなきゃ、ずっと見られたままらしい。どうするんだ、ノンケにこんな姿見られながらセックスをして」
「あぁぁっ!そ、な、ゎ、わかんなっ、です…!も、気持ちぃ、りょうへ、さま、気持ちぃですぅ…ッ!」
「それは良かったね」

ガタガタとデスクが鳴り、彼らの激しさをアキラに伝える。白鳥は泣きながらも甘美な声をあげ、鐐平を喜ばせるように腰を振った。
対する鐐平は、口角を上げて垂れた前髪を掻きあげると、一層張り切り白鳥を突き上げる。
乱暴に腰を掴み、ガツガツと律動する姿に、アキラは内心呆れ、早く終わって小奇麗な状態の白鳥を確認したいと思った。



何となく、鐐平の素性や、文芸部が怪しい部だというのは以前から考えていた。
髪を上げた鐐平の容姿のカッコ良さは知っていたし、文芸部の部員に綺麗所が多い事も疑問に思っていた。
大した活動をしていないくせに、部員が潤っている事に怪しいと感じ、まあ、鐐平が何かやらかしているのだろうなと予想していたのだ。

その予想は見事に当たり。
彼は文芸部員を彼の犬にしていたようだ。

「三島くん暇だろう、冬弥に口でしてもらうか?」
「いや、いいよ。俺勃たないからさ」
「あっ、あああ、ぁんっ、あんっ…」

逆光ではっきりとは見えないが、乱れすぎている白鳥は分かる。
他人がいるというのに、気持ちよさそうに喘ぐ彼の異常性を視界の隅で眺め、鐐平のもう一つの顔に内心ほっとしていた。
自分の友人なら、これくらい変質的な方が安心出来る。