∴ 2 「ずっと、直人先輩が好きで、直人先輩のファンクラブに入りました。勿論、その雑誌は三冊買ってありますし、直人先輩のブログとツイッターは毎日チェックしてます!」 もしかしたら、これはいい事が聞けるかもしれない。 さも興味がありそうに少し上体を乗り出し、リクの瞳を見つめた。 「中野島くん、ツイッターやってるんだ?じゃあ俺もフォローしてこようかな」 「やっぱりマサトくんがタイプなんだ!」 「だから違うって」 「あ、でもツイッターって言っても、読モの方のなんで、モデル仲間や編集者やブランド関係の人としかやり取りしてないんですー。僕らとは絡んでくれません」 リクは寂しそうに下をむいた。泉に比べ、彼にはまだしおらしさというものがあるらしい。 しかしその情報は既に知っている。アキラは直人のプライベートアカウントが知りたいのだ。 「それはつまり、仕事用のアカウントってことかな?読者モデルとしての中野島直人であり、高校生の中野島直人のアカウントではない、ということ?」 「はい、そうなんです。しかも直人先輩、プライベート用のアカウントは作ってないみたいだし、ラインIDも僕たちには教えてくれないし、本当接点なくて寂しいんですよね」 「同じ学校の生徒なんだから、普通に話しかけて友達になったらいいんじゃないかな?読者モデルとしての中野島くんが好きというわけではないんだろ?」 「マサトくんは三島くんみたいに優しくないんだってばー。何かちょっとコミュ障入ってるかもー。ボーッとしてるし、四天王の人としか親しくしてないっぽいよぉ。僕やリクちゃんが声かけても反応がクッソ悪いんだよね」 「直人先輩は、プロ意識が高いから、プライベートが慎重になるのは当然なんだってば!先輩の事悪く言わないでよ」 「あーはいはい、ごめんねぇ」 その点、三島くんは構ってくれるから好きー、なんて泉にくっつかれ、アキラは嫌悪感でいっぱいになったが、顔には出さずにただただ苦笑するだけで済ました。 『プライベート用のアカウントを教えてくれない。じゃなくて、作ってない。か…やっぱりアイツ頭いいわ。芸能界目指すならプライベートのSNSなんて足枷にしかならない。見つかった途端、揚げ足とられて、炎上させられて終わりだからな。それを踏まえて作ってないんだろうな。ちょっとは期待したけど、抜かりなかったか……じゃあ、次は交友関係の方で…』 直人に直接関わらず、SNSを通して彼の性格や習慣、趣味などを調べ、そこから直人を潰すヒントでも得ようとしたのだが、そんな上手くは行かないらしい。 『こうなったら、このリクくんが入ってるファンクラブを通して情報を集めるかなー…リクくんとメアド交換するか?…いや、泉がうるさそー。今でもうっせーのに、更にうざくなんだろうな…』 ちらりと泉を見ると、カラーコンタクトで大きくした瞳を向けてニコニコと笑んでいる。 そんな顔をされたも寒気しか起きないのだが、アキラは懸命に我慢した。 だが、その我慢が幸をそうしたのか、泉があることを口にする。 「あ、でも前にアヤシー子いたんでしょ?リクちゃんとタメのさ、何だっけ名前…如何にもお金持ちですって感じのやつー…西園寺だっけ?鬼龍院?」 「ああ、白鳥?。白鳥冬弥(しらとりとうや)。僕、彼のことは嫌いなんですよねー」 『白鳥冬弥?』 それは初めて聞いた名前だった。 「リクちゃんは白鳥くんが美人だから嫉妬してるだけでしょー?」 「うっ、それ以外でもちゃんと理由があるもん!」 『美人?』 この口ぶりからすると、女性ではなく、男性だ。そして、この学校の人間だろう。 「その白鳥くんがどうかしたのかい?もしかして、凄い綺麗な子なのかな?」 「はー!?三島先輩にまで手ェ出したんですかー!?」 「はああ!?三島くん、ああいうのがタイプなの!?」 「いやいやいや!俺、その人知らないからね!」 ばん!とテーブルに手をついて驚きの声を上げる二人を宥め、アキラは必死に否定をした。 白鳥との接点なんてないと言い、男は恋愛対象にはならないと告げ、(主に泉を)どうにか宥めた。 この二人はまるで女子のようだ。騒ぎ方が男ではない。 「その白鳥くんが怪しいってどういう意味なのかな?」 「それが、はっきりとは判らないんですけど、白鳥と先輩、親しくしてたっぽいんですよぉ」 「へぇ……」 「リクちゃん、あれは絶対付き合ってたと思うよ?」 「う、うっさいなぁ!」 直人と白鳥が付き合っていた? 「へえ、中野島くんも、やっぱり、その、男の子が好きな人なんだ?」 それはおかしい。直人はノンケで通しているはずではなかったのか? |