∴ 2 日に透けると茶色く輝く髪の毛は、ナチュラルにセットされており、嫌味がない。黒縁アンダーリムの眼鏡が似合う、高い鼻は顔にくっきりと影を落とす程スっとした鼻筋をしており、彼の大人びた要素を引き出している。 輪郭もスッキリしていて、全体的にシャープな印象を与えるが、笑うとくしゃりと目尻が下がる目元は優しげで、人好きする表情だ。 事務的な会話しかしないクラスメイト達とは違い、この外部生は恵にフレンドリーに接してくれる。 その事に関して、誰かが注意したのだが「恵くんは虐められるような事や嫌われるような事をしていないし、俺を迷惑がっているようにも見えないよ。そんな恵くんに話し掛けるな、なんて変じゃないかな」と、悟すように返していた。 それが堪らなく嬉しかった。桜介の友達は、この学校には一人もいないから… 『三島くんは何で僕に声をかけてくれるんだろう。きっと心優しい人なんだろうな…いい人。僕もああいう人になりたい…』 数枚しかないカーテンは、瞬く間に閉まりきり、二人の共同作業はすぐに終了。少々寂しく感じた。 「恵くん、今度から日焼け止め塗ってきたらどうかな。それかボディクリーム塗るだけでも、皮膚は赤くならないよ」 「そうします、あの、ありがとう…」 礼を言うと、アキラは笑顔だけで返し、すぐに友達の元へ去っていく。 少し寂しい気がしたが、緊張してまともに喋れないので、丁度良かった。 アキラを気になりだしたきっかけを思い出す。 あれはまだ、新学期が始まって間もなくの頃だ。 「鳳学園から来ました。三島アキラです」 転校生にしては随分と落ち着いた、緊張を感じられない声色の自己紹介と、三島という姓が気になり、桜介は顔を上げて転校生、三島アキラを見たのが始めだ。 彫りが深く、陰影をくっきりと作るのにくどくない顔立ちは彫刻のようで、美しいと思った。そしてその美しい顔を支えている躰も、雄々しいのにスラリとスマートで、等身が高い。背は180半ばくらいあるように見える。 マネキンかビスクドールに眼鏡をかけさせたような美形転校生の衝撃は強く、クラスメイト達が色めき立っているのが分かる。男子校特有の事情だ。 桜介はアキラの美に素直に感動した。完璧なバランスが成り立っているビジュアルは、正にアートだ。緻密で神経質に感じるくらい、配置が素晴らしい顔のパーツに惚れ惚れする。 だが、問題はそこではない。正直、美形というだけならほかにだっているからだ。桜介的には「綺麗な人だな」程度である。 桜介は三島姓に反応したのだ。 理由は単純。かの文豪、三島由紀夫が好きだからだ。 桜介の趣味は読書で、横溝正史や松本清張、三島由紀夫の作品が好きだ。特に三島由紀夫には沢山影響を受けており、三島のように美しい言葉を使う事を意識している。 だから、同じ三島姓のアキラに、「名字が同じだ」と、反応しただけにすぎない。 だが、ひょんな事からアキラの鞄の中が見えた時があり、名作『金閣寺』の文庫本が入っている事に気付いた。 『三島くんも、三島由紀夫が好きなのかな?』 同世代の男子でその時代の作品を見る者は少ない上に、三島由紀夫なんて皆無に等しい。桜介くらいだろう。 それがまさかここに居たとは… 桜介は嬉しさに胸が熱くなったが、彼はクラスメイトとの会話を極力禁止されている為、アキラに話しかける事は出来ない。 勿論、転校早々に人気者になったアキラが桜介に話しかけることもないと思っていたため、自分と同じ趣味なのか確認はとれないと諦めていた。 そんな矢先に、アキラは人好きする爽やかな笑顔を向けて、自分に話しかけてきた。 「恵くんのそれってさ、地毛?凄い綺麗だね。ふわふわしているし。ハーフだったりするの?」 「!?」 桜介の前の席に座り、アキラが少しだけ前髪に触れてきた。あまりの出来事に、桜介も、クラスメイト達も、ピシッと固まって動けなくなる。 それでもお構いなしにアキラの質問は続く。 「肌も白いよね。目も大きくて茶色い。ご両親、外国の血が混ざっている?いいよね、俺は純日本人顔だから、恵くんみたいな綺麗な顔立ちには憧れるよ。少し北欧っぽいよね。何か妖精みたい…」 「おい、三島!」 そこまでアキラが喋ると、橋本というクラスメイトがアキラの腕を引っ張り立たせた。 「え?橋本、何?」 「あんま言いたくないんだけどさ、ダメなんだよ。恵と話すの…」 「は?何で?」 桜介に対しバツが悪そうな視線を送ってから、橋本は言いにくそうにダメだと言う。 橋本の心情が伝わり、桜介は心臓がギュッと潰れるような感覚になったが、拳を握って堪えた。 「恵くん、何か悪いことしているのか?」 「いや、してない…恵は、何も悪くはないんだよ…そんで、俺らがイジメとかしてるっていうのでもなくて…そういう決まりなんだ…」 「決まり?」 納得出来ないという表情を作るアキラ。 それはそうだろう、桜介と会話をしてはいけないのにイジメではない。は、意味が解らない。 橋本は桜介に気を使って、言葉を選びながらしどろもどろになってしまっているのがいたたまれないし、怪訝そうにこちらを見つめてくるアキラの視線にも耐えられない。 |