熱の条件 | ナノ






『あれ、これは…』

そんな時、一つの画像に目が止まった。
それは今からサーブをしようとしている桜介が中央に写っているのだが、その左後方のネット越しに、見慣れた人物が写りこんでいる。

『もしかして、これって…』

クリックして画像を大きくしてみた。
そこにはばっちり、シュートをきめようとしている、アキラの姿が写っていた。

『わ、わー!レアショット!後でスマホに送ろう!』

ボールを両手で持ち、腰を落として構えているところだ。
美しい横顔。高い鼻に引っ掛った眼鏡が反射し、そのスッキリとした瞳は見えないが、それでも充分過ぎる収穫である。
憧れているアキラの画像。
普通の友達同士がするように、携帯カメラで撮影出来るわけがない桜介からしたら、こういう見切れている写真ですら嬉しい。
これがあるなら嗣彦に馬鹿にされても許せる。というか、全然気にならない。

「今度はサーブ?このメグミはまだまともじゃん。でもかわいくないなー」

なんて言われてもへっちゃらだ。

「あ、でも面白いからさ、コーイチたちにも見てもらおうよ!アイツらに選ばせない?絶対面白いって!」
「……」

へっちゃらだけれど、醜態をほかの人に見せるのはやめてもらいたいと思う桜介だった。


***


オレンジ色の柔らかい照明に照らされ、魚のムニエルにかかったソースが、てらてらと光る。

ランプを模った照明に、四角い四人掛けの木製テーブルや、白いソファ。カフェのような丸い大きなテーブルもあれば、二人掛けのものもある。テラス席も幾つか見られる。
天井まである大きなガラス窓には、大和の学生たちが楽しく食事をしている姿が映っている。
幾つもある観葉植物は、パーティション代わりにテーブルとテーブルの間に置かれている。
学生寮の食堂にしてはまるでレストランのような内装だ。

その一角――何故かテーブルの中央に薔薇の花が飾られている丸テーブルは、注目の的となっている。誰もが食事をしながらちらちらと盗み見をし、その姿を意識しながらゆっくりと食べ物を口に含む。その注目のテーブルには、五人の男が談笑している。

一人は、孤独の姫、恵桜介だ。裏校則に縛られ、友人が作れない可哀想な美しいお姫様。儚く、寂しげな彼の雰囲気に、誰もが同情し同時に心奪われている。ほかの堂々としたメンバーに挟まれ居た堪れなさそうに、恥ずかしそうに俯きながら水をちびちび飲む桜介の姿は、可哀想で守ってあげたい。しかし何処か嗜虐心を煽るものがあり、何とも言えぬ色気が溢れている。

その桜介の右隣で紅茶を優雅に飲みながら高飛車な笑みを浮かべているのは、三年生の籠原嗣彦。

「ねー?うけるでしょ。メグミのドン臭い感じ、凄いカワイイよねー。なーんかこれなら選ばなくてもデータ丸ごと送っちゃえば良くない?って感じ」

煌めく金髪はとても滑らかで彼の綺麗な肌にさらさらと触れている。ブリーチされた髪にしては痛んでおらず、耳に掛けるとするんと滑り落ちた。
長い睫毛に縁取られた大きな猫目で見つめられると、確実に惚れてしまうだろう。そのくらい、魅力的な眼差しを持った小悪魔さがある。

「でも、ぶれてんのがありますよ。……あ、これ、白河さん気に入んじゃないっすか?空振りしてるやつ。こういう間抜けなの、あの人好きっすよね」

楽しそうに笑んでいる嗣彦と違い、嗣彦の右隣りでぼんやりとやる気が無さそうにノートパソコンを見つめ、写真を選別している人物は、中野島直人(なかのじままさと)。二年生で、桜介と同級生だ。
長い前髪を真中で分け、ワックスで整えている。前髪の長さの割には後ろは短く、襟足は刈り上げられ、トップから後頭部にかけてつんつんと跳ねている。
男性ファッション誌の読者モデルをしているせいか、他の人とは一味違うセンスを持っているようだ。直人のトレードマークとなっている伊達眼鏡はいつも奇抜なデザインで、今かけている物は丸いレンズのフチに太い蛇が這っている。そうとう値が張る物らしいが、それは中々人に伝わらないようだ。

「それにしてもさー、ナオトのその変な眼鏡、どうにかなんないわけ?何か勘違いしてるバーバルみたいでダサー」
「ナオトじゃなくてマサトっす。あと、眼鏡に関しては籠原さんの意見聞かないんで。あ、これ黎治郎も写ってんじゃん。見てみ。後ろでバスケしてる」
「ん」

直人の隣に座り、珈琲を飲んでいるのは久米黎治郎(くめれいじろう)。二年生の割には体が大きく、貫録もある男だ。
赤い髪を立ち上げ、硬そうな額を見せている黎治郎は基本無口で、あまり喋らない。ぼんやりとして、冷めた雰囲気がある直人とは気が合うようで、よく一緒にいる。
強面で発育がいい黎治郎は、よく怖がられるが端正で男らしいルックスのせいか、クールに見えてファンが多い。
キリっとしたきつい眼差しで画面を見つめるだけで、ときめく生徒がちらほらと居た。