熱の条件 | ナノ







「日藤先輩さ、何かすげぇこと言いませんでした?両親の連絡先?とか。そこまですんのかよってビビったっす」

パソコンに打ち込んだメンバーリストを眺めながら、加藤は日藤のでっぷりとした丸い背中に向かって話しかける。日藤は大きい尻を椅子に乗せて、机の上のノートに何かメモをしながら「はい?」と答えた。

「連絡先ですよ。それ持ってきたら正式に会員したるわーって言ってたの。あれ、引かないっすか?そこまでするかよってなんじゃないっすか?」
「ああ、せやなぁ。まあ、フツーやったらドン引くけど、そういうもん持っとった方がちったぁ弱味になるから裏切りもんが出にくくなるやろ。自分家のこと人に知られてるのぉてキショいしなぁ。こっちとしては欲しいところなんよ。
まあ、恵くんに手渡しで提出やで?恵ファンやったら、喜んで持ってくるわ。あ、僕らも用意せなアカンで」
「ゲッ、俺もっすか?はー、おふくろにラインだな」

正式に会員になるには、実家や両親の職場の連絡先を用意しろとこの太っちょ先輩は言ってのけた。今度は恵桜介を交えた会合になるから、そこで本人に直接提出し、正式会員入りを果たせと。
やりすぎだろうと思うが、白河鷹臣を敵にするのだから、やりすぎくらいが安心なのかもしれない。
それにバレたら大好きな恵桜介にも迷惑がかかるのだから、理解してくれることを期待する。

ついでに彼女にも連絡を入れよう、とポケットからスマホを出してタップしたと同時に、バーン!という壁を殴ったような音が部屋中に響き、思わずスマホを膝に落とした。

「こおーんばあーんわぁー!!」

一音一音無駄にハッキリと発音をするその大声の挨拶……同じ二年生、小松山一博の馬鹿みたいに陽気で目立つ声に、加藤は溜息を吐いた。
どうやら彼が乱暴に玄関のドアを開けたらしい。

「うるせー!!小松山ぁ!開ける時はピンポン押せ言うたやろ!!」
「ごめーん!忘れちゃったー!」
「普通忘れへんわ!」

いやいや先輩の声も十分煩いっすわ。とは言わずに、ドスドスと踏み鳴らしながら玄関へ向かう柔らかそうな背中を見送り、加藤もそちらの方を向いた。

「ねえねえ実家から宮崎マンゴー来たんだけど食べない!?すっごい美味しいんだってー!」
「お前は自分で剥けへんから持ってきただけやんな?」
「えへへー!」

日藤は分かるが、どちらかというとヒョロヒョロでもやしっ子な体型なのに、小松山も日藤のようにドスドスと廊下を鳴らしながら部屋へと入ってきた。
手にはマンゴーが入った重そうな段ボール箱が…箱そのままで持ってきたのか。

「やっぱ加藤くんもいたね!チッスチッスー」
「おう、チッス」

加藤くんもマンゴー食べてね、なんて笑顔を向けながら、小松山は部屋の隅に段ボールを置いて加藤の向かい側へ座る。すると、リビングの方から日藤に「こっちで食うか」と呼ばれたのでそちらに移動した。


太い指で器用にマンゴーを剥き、種を取り除いた日藤は深皿にカットしたマンゴーを薔薇になるように並べてダイニングテーブルへと置いた。その見た目からは想像出来ないロマンティックな仕上がりだ。

「ほれ」
「わぁ何これすごい!写メしちゃお!先輩、これさあ俺がカットしたってことにしていいよね?」
「アホか!!」
「うわー、すっげ。ヤバ」

俺も写メします、とスマホを取り出して小松山とパシャパシャと撮影する。彼女にでも送ろう。

「小松山くん、西やんと貫地谷くんはどうしたん?君ら、親衛隊班やろ」
「西山先輩は、浅田鴻一親衛隊メンバーに心当たりあるってそっち当たってて、貫地谷くんは分かんないなぁ。俺はマンゴー係!ん、おっ、あっまーい。すんごい甘いよこのマンゴー!」
「マンゴー係ってなぁ…まあええわ。こっちはメンバー十人集めたで」
「へー、まだ十人?」
「しばくぞ!」

付き合いが長いのか、小松山の口調は遠慮がない。何だか漫才を見ているようで面白い。加藤もマンゴーにフォークを刺して口に運ぶ。

「う!マジで甘っ。小松山、美味いなこれ」
「良かったー!加藤くんに気に入ってもらって。加藤くんって酒と女とタバコとクラブってイメージだからさぁ!」

おい、それはかなり失礼だぞ。

「僕もそんなイメージや」
「ゲ。俺、そんなヤバイ感じっすか?」
「ちゃうよ。僕らと正反対って意味やって。だってめやっちゃリア充やん」
「リア充…」
「そうそう!だって彼女さんいるでしょー?ホモじゃないでしょ?男の子見て「抱きたいなー」って思わないでしょ?」
「ねーよ。ぶっちゃけ理解出来ねぇ」
「ほらほらー!ねえ、何で加藤くんは参加しようと思ったの?俺、不思議に思ってたんだよね!」
「それ、僕もや」
「はー?何でって、」