熱の条件 | ナノ







「北京ダック好きだろ。あと、飲茶類もあるぜ。チャーハンは、メグの好きなあんかけにした」
「わ、凄い。ありがとうございます」

好きなものを好きなだけ食べられるように、とやたら上品に盛られた皿がズラリとテーブルを占領している様は、かなり目に興奮を与えた。
緊張のせいか機能していなかった胃が、急にきゅるきゅると回り出して、桜介に何か寄越せと命令してくる。なんて現金なやつなんだ。

「はっ、すっげー鳴らしてんな。さっさと食おうぜ。空腹のまま寝たら、しっかり寝れねえし」
「いただきます」

ダイニングテーブルにつき、北京ダックや小籠包、フカヒレスープにエビチリ、上海蟹や豚の角煮など、北京料理から広東料理まで選り取りみどりの中、普通に食事を楽しんだ。
普通に、だ。鷹臣と二人きりだというのに、料理の感想を言い合いながら、彼の大学生活のことを聞きながら、何事もなく、ごく平和にディナーを楽しんだ。

「有り得ねえよな。この年でSNSの使い方習うんだぜ?ネットリテラシーだの、著作権だの肖像権の侵害だの、んなくっだらねーこと教わるってあるか?教える方も「マジかよ」って顔してたしよ。そりゃ「マジかよ」ってなるぜ。バカじゃねーの?って思うわ」
「今、ツイッターを使用しての問題が増えていますし仕方ないですよ。K大の生徒が何かをしてしまったら、ほかのK大生の就職にも響くかもしれませんし」
「んなアホな奴ははなっから入学させんなっつの」
「それが一番ですが、そうも上手くいきませんよ。先輩はツイッターやってるんですか?」
「やってたらメグにすぐ教えてんだろ」
「ああ、確かに」

未成年なのに紹興酒を舐める鷹臣は様になっていて、実に優雅だ。所作もゆったりとしてリラックスしているし、常に落ち着きを纏っていて、穏やかさがある。
このまま、何事もなく過ごせれば良いのだが…しかし、そうもいかない。


ディナーを済ませ、歯を磨いている時から鷹臣の芳醇でこれでもかと熟成された欲望は頭を見せていた。

『やっぱり…』

彼の左手は桜介の細腰に回り、自分の方へと引き寄せている。鷹臣にピタリと付くように隣に立ち、歯ブラシを歯にこすらせる桜介は、これからの予兆に頬を赤く染めていた。

『歯磨きが終わったら、先輩と…』

ルームウェア越しなのに、指紋のシワまで鮮明に解りそうなくらい、鷹臣の指を皮膚に感じてしまう。
大きく太い指からジンジンと熱が伝わり、桜介の気持ちを悲しいものへとさせていく。
嫌だという嫌悪感と、当時味わった強過ぎる官能とが湧き出し、頭の中をぐちゃぐちゃにしていった。


果たして、それは訪れる。

「メグ、」
「あっ」

お互いの口腔が清め終わった途端、鷹臣に脚を掬われるように抱き上げられ、お姫様だっこの形にさせられた。
セクシーでエキゾチックな顔がすぐ目の前に。そして、その目の奥で欲望の炎をあげているのが見える。

「するからな」
「……やだ、し、したくない…」
「なに言ってんだよ。無理だ」
「先輩、お願い、僕……んっ!」

抵抗の言葉は突然のキスにより中断され、彼の厚い唇が重なり大きな舌がすぐに侵入して、桜介の小さな口腔をいっぱいにしていく。久しぶりの鷹臣とのキスは、紹興酒の苦いような甘いような複雑な香りが混じったもので、独特の酒の匂いに頭はクラクラとする。

そのままベッドまで運ばれ、ゆっくりと下ろされた頃には、すっかりと酩酊してしまって、弱々しく手で顔を隠すことしか出来なかった。

「やだ、ほんと…だめです」
「マジで無理。お前目の前にしてよく耐えたと思えよ」
「そんな、だって…」

パーカーのジッパーを下ろされ、大きな手のひらが胸を遠慮なくまさぐると、桜介は条件反射で感じてしまった。
いくら心が否定しても、四年も鷹臣に慣らされた躰は、パブロフの犬のように「鷹臣が触れたら欲情しなければならない」とそのように反応してしまう。
アキラに触れられると、心の底から欲情するのに、鷹臣に触れられると心を置き去りにして躰が先に快感を得てしまい、自分の意思とは無関係に官能へ溺れてしまうのだ。
桜介は悲哀の色を混ぜた視線で訴えるしかできない。

「ちゃんと、ボディケアしてんだな…はあ、気持ちぃ。堪んねえ…」
「先輩がしろって言った…」
「そうだけど」

ゆっくりと袖から腕を抜かれて、上半身が裸になる。鷹臣もバスローブを脱いで裸になると、体温を確かめるように桜介の背中へ腕を回して密着し、なめらかで白い首筋に頬を付けた。
そのまま皮膚を吸われ、優しく舐められる。

「ぁっ、んっ…」

耳の下辺りから鎖骨までを啄まれ、ぞわぞわとしたムズ痒い快感が走り抜けていく。荒々しい所作は無く、ゆっくりとした動きが桜介の躰をほぐした。

「ゃ、いやぁ…」

感じたくないのに感じてしまい、鷹臣の長い髪が肌の上に落ちて滑るくすぐったさや、彼の呼吸にすら反応し始めている自分が嫌になる。

「だめ、ぁ、あんっ…んっ!」

嫌だ、駄目。そんな言葉を遮るように、鷹臣の太い指を口腔へ突っ込まれた。二本の指が舌をなぞるように動き、口の中を犯していく。

「ふは、はん、はぁ、」

唾液を溢れさせ、蹂躙されるがままに口を開きながら、桜介は鷹臣の愛撫に溺れていった。