熱の条件 | ナノ






小松山は日藤派だ。
加藤と橋本、西山も日藤派。
南沢は鐐平派。
戸塚はアキラに委ねると言う。
では、落合はどうだろうか?

「落合くんはどう思う?」

コミュニケーションが苦手な彼に優しく微笑みかけて問うと、落合は驚いたようにビクリと肩を跳ねさせ、「え、え、」とキョロキョロした。
みんなも落合を見るが、そうなると余計に慌てたように目を回す。

「ゆっくりでいいから、落合くんの意見を聞かせてほしいんだ。」

大丈夫。俺がついているよ。
そう語りかけるように微笑み、小首を傾げてみせた。
発表会ではないから、気軽に言ってほしい。宥めながら即すと、落合圭一の唇が動き始める。

「と、とにかく、恵くんの味方を作ることは、大事だと思う…」
「味方はどういう味方のことを言うのかな?俺たちみたいな味方?」
「いや、その、加藤くんとかが言ってたような人。……し、下心持ってたりとかする人達で、三島くんとの交際を知らない人…」
「こういう、何でも話し合うメンバーではなくてってことだね?」
「はい、交際は伏せて、恵くんファンを集めるんだ……恵くんのファンがどれくらい居るのか、ちゃんと、確かめるのは大事だし、やっぱり数が必要だと思う」

今日は雨のせいかそこまで熱くないのに、落合の額は汗で濡れている。彼はそれを仕切りに手で拭っていたから、手にしていたタオルを貸してやった。
ペコペコと頭を下げながら受け取り、ぐいぐいと大袈裟に顔を拭う。

「数が必要?どう必要なのかな?」

この時点で、アキラは落合圭一の言わんとすることを理解した。それは今、自分も考えていたからだ。

「どう必要…その、恵くんファンっていうことは、だ、誰もが、恵くんと親しくなりたいってことだよ。"下心を持った親しさ"も、入る、よ…みんながみんな、恵くんを求めてると思う…でも、裏校則があるから、交流したくてもバレたら、怖いよね?」
「うん、そうだね」
「そうなると、リ、リスクを背負って恵くんに近付くより、もういっそのこと絶対に、近付かないで、誰も恵くんに触れられない方がいいんだと思うよ。ア、ア、アイドルオタクだってそうでしょ。好きなアイドルが誰かと付き合ってたら嫌がるよね。誰とも付き合ってほしく、ない、よね。恵くんファンは、そういう心理があると思うんだ」
「うん。裏校則という名目の協定を結んでいるということだね。"恵桜介はみんなの恵桜介だ。抜け駆けしたら白河先輩にチクるぞ"ってことかな?」
「そ、そう!つ、つまりは、彼らも厄介な集団に分類されるんだ。し、四天王も厄介だし、その親衛隊も厄介だけど、彼らも相当邪魔くさいんだと思うよ。た、確かな敵だよ、三島、くんのっ。」
「俺が桜と付き合っていることがこの集団にバレたら、それはそれで、相当ヤバそうってことだよね。でも落合くんは気付いているんじゃないかな?実は一番、扱いやすいって」
「うん!そう、だよ!」

落合は喜んだようにブンブンと首を縦に振った、三島くんはやっぱりスゴイや。と。初めて彼の喜々とした瞳を見た気がする。

ここで一つ息をすると、この落合とのやり取りを黙ってみていた面々からの視線を一身に受けた。
目が半分、「どういうことだ」と言っている。そしてもう半分は「やっぱり」だ。

だから、もうアキラは宣言した。

「桜のファンを集めます。そして彼らを言いくるめ、俺のチームに加えます。勿論、騙す形で、です。
「内密裏に桜のファンクラブを作った。本人とも少しだけだが交流出来る」そんな誘惑をかけ、彼らを誘い、動きを封じます。
桜とファンとの会合を定期的に行うようにし、桜自身の口から彼らに「お願い」をしてもらうのです。「秋川先輩が制裁されたあの日のこと、知っている方は居ませんか?いたら教えてください」とね。
そうして良いように使い、資料を揃えさせ、桜の為にやっているんだと酩酊させ、彼らを使うつもりです」

眼鏡がずれたので、縁を持ち上げ直した。
おかしい。アキラまで汗をかいているようだ。少なからず、さっきよりも緊張している。

だって賭けだから。この宣言を聞いて、引く人間だっているはずだ。
それでも、アキラは引かせる勢いで続ける。

「それくらいしなきゃやってられません。「騙していたことがバレたらやばい」そんなの心配していられませんし、使えるものは使わないと太刀打ち出来ません。
相手は白河鷹臣ですよ。大和グループですよ。最近、大手衣料メーカーを買収したばかりのグループです。その血筋に喧嘩売るんですから、何でも使って戦わなきゃ無理です」

口が滑る。声だけが先走って飛び出す感じだ。

「俺はそれくらいするつもりで皆さんを集めました。それくらい、桜のことしか考えていないんです。ここに入ってからずっと、彼だけを見てきて、彼のことばかり考えて過ごしていたんです。会ったことも無い白河鷹臣をぶん殴ってやりたいと何度も思いました。
だから正面からぶん殴るんです。その為の準備をしたいんです」

鷹臣を殴れるのなら、誰に殴られたって気にしない。

「俺に力を貸してください。お願いします」