熱の条件 | ナノ






「では、籠原先輩は?」
「籠原は、籠原自身が動いとるんやなくて、周りが動いとるな。浅田は自分で考えて自分で指示するタイプやけど、籠原の場合は、籠原に好かれたいが為に、親衛隊の奴らが自分たちで行動してる形やろ。浅田んとこは統制が取れたチームプレイやけど、籠原んとこは個々がそれぞれに動き、結果チームワークとしてまとまったスタンドプレータイプやな」
「籠原先輩は、浅田先輩ほど、忠誠心はないということですか?」
「浅田ほどやないけど、白河先輩とは幼馴染みらしいし、多少はあるんやない?やっぱ仲ええやろあの人ら」
「なるほど…」

絶対的忠誠心を持つ浅田鴻一とその親衛隊。
そして幼い頃から白河鷹臣を知る籠原嗣彦。
それに対して、中野島直人や久米黎治郎は力が無いのだろうか。

「中野島直人はどうですか?」
「中野島か?アイツはノンケやん。それに、一応芸能人やろ?芸能人がホモな親衛隊持ってますーなんて思われたらアカンやろー。アイツ自身、自分たちのファンとは交流してへんやん。冷たいし。せやから、ファンの数自体は少ないと思うで。数だけで言うたら、三島くん、君の方が上なはずや。君は誰にでも優しいからな。
中野島の場合は、やっぱ見た目ええからずっと見ていたいって奴は多いんよ。でも、その中からちゃんとしたファンを絞ったらかなり少ない。少ないけど、忠誠心は桁外れにあると思うで。せやから、中野島が自分のファンと交流して彼らを使うようになったら凄いことになると思うわ」
「そうですか…では、久米黎治郎は?」
「久米はなー、ほんまそういうの興味ないみたいやな。空手バカやし。ファン居るけど、中野島同様、交流ないみたいやな。アイツって確か、高等部から入ってきたんよ。だからノンケだろうしまだ学校には馴染んでへんなあ。
多分、恵くんに近付く人間がいないか、率先して監視してんのが浅田。親衛隊が勝手に率先して監視してんのが籠原。中野島と久米は、自分たちが直接目撃したら考えるってタイプやろ」

そうなると、親衛隊やファンの数によって四天王を決めた訳ではないということか。
鷹臣の右腕、左腕に適しているのは嗣彦と鴻一なのだろうが、直人と黎治郎はそこまでの能力が無さそうだ。寧ろ、ビジュアルが良いだけの一生徒という位置づけに近い。
では家柄か?
嗣彦の家は父親が建築デザイナーだ。有名な商業施設をいくつも手掛けている。
直人のところは華道の家元だとすぐに調べがついた。
あとの二人は知らない。

「久米黎治郎と浅田鴻一の両親は何をしている方なのか分かりますか?」
「久米は有名やん。空手馬鹿一家やで。何か家が道場なんやと。とーちゃんかーちゃんも空手家。じーちゃんばーちゃんもそうって聞いたわ。浅田んとこはいい会社に勤めるリーマンやったはず。四天王の中やと一番フツーやな。
三島くん、四天王って権力とか家とかで決めたんやないと思うわ。あくまで、白河鷹臣と仲良くて、単純に白河鷹臣が気に入った人間を集めただけやと思う。四天王の意味に深いもんはないで」

アキラの疑問をあっさり見抜き、日藤はハハハと笑う。やはり彼は聡明だ。眼鏡の奥の細い目は常に知的に光っている。
図星を突かれ、アキラは面食らったようにパチクリするが、同時にいい人物を味方に出来たことに喜びを感じた。

「そうですか…では、桜と白河先輩の関係、そして、桜の恐喝されている内容は俺が聞き出します」

眼鏡をくっと上げ、言葉を続ける。

「みなさんは四天王のことを改めて調べて下さい。浅田鴻一のその忠誠心というのが気になります。何故そこまで忠義を尽くすのか、絶対に理由がありますので。それと制裁を受けた秋川先輩と岡部くんにアポをとってください。二人と話がしたいです。そして、二人の当時の行動をまとめてくださると助かります。目撃者から証言をとったり、二人と仲の良かった友人達に話を聞いたりしてみて下さい。あと、今の白河鷹臣の状態を知りたいです。…いや、白河鷹臣のことなら何でもいいですね。塵のように誰も注目しないようなことでもいいので彼の情報をとことん集めて下さい。
……と、そうすると、人員が足りませんよね。信用出来るメンバーをもう少し揃えないと…」

まとめようと話している内に「おや、思っていたよりやる事が多いぞ」と気づく。
そこまでするのにこの人数だとキツいだろう。アキラ自身もできるだけ動くつもりだが、だからと言ってアキラ一人増えたところで大した力にもならない。
大々的に調べられて「情報募集!」なんて貼り紙でも貼れるのなら、この人数でも良いのだが、そんな大っぴらにできる訳が無いし。

口が堅い、信用出来るメンバーが必要か、と面倒くさいなぁと考えたのだが、鐐平がぺろりとこんなことを言い出した。

「それこそ、恵くんファンにやらせればいいんじゃないか?君と恵くんが付き合っている事を教えずに事情を説明すれば、喜んで動くはずだろう。裏校則に対して鬱憤が溜まっているはずだから、問題なく協力すると思うが。人員も増えるし、恵くんの為に動く人間だろうから信用も出来るはずだ」

−−こいつ、簡単に言ってくれたな。
このメンツを前にして、人を騙して使う案はまだ出すべきではないと打診していたのに、鐐平はなに食わぬ顔で提案した。
そう、それはアキラも考えている。寧ろ最初から考えていた事だ。桜介をダシに使って桜介ファンの奴らに下っ端仕事をさせることを。
でも、初日からそれを言うか?このメンツにはまだそういう黒い部分は見せるべきではないと思うのだが。

おいおいとツッコミでも入れようと思っていたが、南沢康介が意気揚々と

「貫地谷先輩それですよ!それいいですね!人員が一気に増えてくれますぅ!」

賛成した。
可愛い瞳を光らせて「頭いーい!」なんて言っている姿を見ると彼はなかなかの曲者だ。