∴ 2 『出掛けた?』 そう思いながらもドアノブを回すと、すんなりとノブが回った。 開けたまま出掛けたのだろうか?ゆっくりと扉を開くと、すぐにDVDが入っている紙袋が見えた。ナオト用と書かれた紙が貼ってある。 『いやだからマサトだっつの』 ツッコミを入れながら、入室した瞬間、直人はギクリと体を硬直させたのだ。 「っ!?」 玄関から一直線…全ての扉が開けられた室内の奥の部屋には、肌色の塊が寝転がっている。 「………」 だらりとして力が入っていない足をこちらに向けて、尻の丸みを見せるそれは、正しく人間の裸。しかも、男なら誰しも身に覚えがある臭いが漂っている。 急いで玄関を閉め、部屋へと上がり込んだ。 あれは、絶対に桜介だ。そして、この生理的な匂いは絶対にあれに違いない。 もしかしたら桜介が何者かに襲われたのかもしれない。 「っ…!」 背筋が寒くなり、胃がぎゅっと傷んだ。変な汗が額に浮かぶ。 桜介が…あの恵桜介が鷹臣以外の人間に… 大股で部屋を横断し、急いで彼が横になっているベッドへと近付く。 もし、本当に襲われた後だったら、絶対に犯人を生かしてはおかない。 「恵く…!……え?」 しかし、直人は勘違いにすぐに気付いたのだ。 部屋が全く乱れていないから−−− 服は脱ぎ捨てられたようにぐしゃりと落ちているが、シーツの乱れもないし、怪我や痣といった暴行の跡がない。本棚や机の上の物も乱れてはいない。 精液で汚れてもいないし、ティッシュはちゃんとゴミ箱に捨てられている。 桜介本人は、気持ち良さそうに寝息を立てていた。 『は?なんだよこれ…じゃあ、何で全裸で?』 取り敢えず、起こした方がいいのだろうか? どうしたら良いのか分からず、半ばパニックになりながら、彼の肩を揺さぶろうとした時、桜介の右手が濡れている事に気付いた。 『あれ?』 それは水ではなく、油のようなもので濡れている。匂いを嗅いでみると、甘い化粧品の香りがする。 『何だこれ?』 部屋を見渡すと、蓋があいたオイルボトルがベッド横のサイドテーブルに置いてある。手に取り確かめると、同じ甘い匂いがした。 ということは、オイルマッサージをしていて眠くなって寝てしまったのだろうか…なんて考えてみたが、答えはもうとっくに解っている。そんなの、アレしかないじゃないか。 右手をオイルで濡らしてすることなんて…念の為確認してみると、ほらやっぱり尻の奥が濡れていた。 桜介はいくら可愛くても同じ男なのだから、そんな自慰くらいしたって不自然な事はないのだ… 「っ……」 不自然な事はない。大丈夫。誰だってする。誰だって… そう自分に言い聞かせても思考が追い付かない。気持ちが整理出来ない。 頭の中でもう一人の直人…彼の悪い本音が囁いてきて、気持ちを乱していく。 『恵くんが、そんなまさか…見なかった事にして部屋を出た方がいいな』 −オナって疲れて寝たってことは、僕が来る事を知っててそんな事をしたってことだよね?何時に来るか分かんないのに、部屋のドア開けてオナニーしたの? 『ダメなんだって。僕は、友情を築くって決めたんだからさ。ダメなんだよ、これはアウトだ』 −しかも全裸で、下半身を入口に向けてさ。尻の方、オイルで濡れてんじゃん。ケツいじってイッたってことだね。よっぽど欲求不満なんだ 握った拳が奮えている。顔がカーっと熱くなり、鼻の上に汗をかいている。眼鏡をずらし片手で拭うが、汗は引かない。意識が朦朧とする感じだ。 『僕は、僕に向けてくれる笑顔が嬉しくて……それでいいじゃん。オナニーなんて誰でもするし。恵くんだけじゃないし。別にフツーなことだし…』 −凄い体綺麗にしてんだね。流石、白河さんに徹底的にケアされてたことはあるわ。ほら、あのナイトドレスの向こう側はこうなってるんだよ。肌は真っ白、乳首はピンク。アソコも綺麗じゃん。よく見なよ 『こ、んな…綺麗な体してる奴は、モデル仲間に沢山いるし…別に…』 −ホントに? 『え?』 |