熱の条件 | ナノ






『出掛けた?』

そう思いながらもドアノブを回すと、すんなりとノブが回った。
開けたまま出掛けたのだろうか?ゆっくりと扉を開くと、すぐにDVDが入っている紙袋が見えた。ナオト用と書かれた紙が貼ってある。

『いやだからマサトだっつの』

ツッコミを入れながら、入室した瞬間、直人はギクリと体を硬直させたのだ。

「っ!?」

玄関から一直線…全ての扉が開けられた室内の奥の部屋には、肌色の塊が寝転がっている。

「………」

だらりとして力が入っていない足をこちらに向けて、尻の丸みを見せるそれは、正しく人間の裸。しかも、男なら誰しも身に覚えがある臭いが漂っている。

急いで玄関を閉め、部屋へと上がり込んだ。
あれは、絶対に桜介だ。そして、この生理的な匂いは絶対にあれに違いない。
もしかしたら桜介が何者かに襲われたのかもしれない。

「っ…!」

背筋が寒くなり、胃がぎゅっと傷んだ。変な汗が額に浮かぶ。
桜介が…あの恵桜介が鷹臣以外の人間に…
大股で部屋を横断し、急いで彼が横になっているベッドへと近付く。
もし、本当に襲われた後だったら、絶対に犯人を生かしてはおかない。


「恵く…!……え?」

しかし、直人は勘違いにすぐに気付いたのだ。
部屋が全く乱れていないから−−−

服は脱ぎ捨てられたようにぐしゃりと落ちているが、シーツの乱れもないし、怪我や痣といった暴行の跡がない。本棚や机の上の物も乱れてはいない。
精液で汚れてもいないし、ティッシュはちゃんとゴミ箱に捨てられている。
桜介本人は、気持ち良さそうに寝息を立てていた。

『は?なんだよこれ…じゃあ、何で全裸で?』

取り敢えず、起こした方がいいのだろうか?
どうしたら良いのか分からず、半ばパニックになりながら、彼の肩を揺さぶろうとした時、桜介の右手が濡れている事に気付いた。

『あれ?』

それは水ではなく、油のようなもので濡れている。匂いを嗅いでみると、甘い化粧品の香りがする。

『何だこれ?』

部屋を見渡すと、蓋があいたオイルボトルがベッド横のサイドテーブルに置いてある。手に取り確かめると、同じ甘い匂いがした。

ということは、オイルマッサージをしていて眠くなって寝てしまったのだろうか…なんて考えてみたが、答えはもうとっくに解っている。そんなの、アレしかないじゃないか。
右手をオイルで濡らしてすることなんて…念の為確認してみると、ほらやっぱり尻の奥が濡れていた。
桜介はいくら可愛くても同じ男なのだから、そんな自慰くらいしたって不自然な事はないのだ…

「っ……」

不自然な事はない。大丈夫。誰だってする。誰だって…
そう自分に言い聞かせても思考が追い付かない。気持ちが整理出来ない。

頭の中でもう一人の直人…彼の悪い本音が囁いてきて、気持ちを乱していく。

『恵くんが、そんなまさか…見なかった事にして部屋を出た方がいいな』

−オナって疲れて寝たってことは、僕が来る事を知っててそんな事をしたってことだよね?何時に来るか分かんないのに、部屋のドア開けてオナニーしたの?

『ダメなんだって。僕は、友情を築くって決めたんだからさ。ダメなんだよ、これはアウトだ』

−しかも全裸で、下半身を入口に向けてさ。尻の方、オイルで濡れてんじゃん。ケツいじってイッたってことだね。よっぽど欲求不満なんだ

握った拳が奮えている。顔がカーっと熱くなり、鼻の上に汗をかいている。眼鏡をずらし片手で拭うが、汗は引かない。意識が朦朧とする感じだ。

『僕は、僕に向けてくれる笑顔が嬉しくて……それでいいじゃん。オナニーなんて誰でもするし。恵くんだけじゃないし。別にフツーなことだし…』

−凄い体綺麗にしてんだね。流石、白河さんに徹底的にケアされてたことはあるわ。ほら、あのナイトドレスの向こう側はこうなってるんだよ。肌は真っ白、乳首はピンク。アソコも綺麗じゃん。よく見なよ

『こ、んな…綺麗な体してる奴は、モデル仲間に沢山いるし…別に…』

−ホントに?

『え?』