待ちわびる3月14日


わたしの恋人はサッカープレイヤーである。よって2月14日は絶讚キャンプ中ということで、直接会うことは叶わない。だから代わりに実物をキャンプ地に送りつけるという彼にとってはからかわれる格好のネタになるようなはた迷惑な、しかしわたしにとっては味気ないバレンタインデーをここ何年か続けていた。ちなみにこれは彼の相棒である杉江さんの奥さんに倣っている。
その彼がキャンプを終えてもなかなか会いに来てくれない。電話もメールも返ってこない。例年通りなら少し早いホワイトデーのお返しを持って真っ先に会いに来てくれるのだけれど、今年は音沙汰がない。彼は誕生日とか記念日とか、そういうものを大切にしてくれていつも何かしらプレゼントを用意してくれる。そんな顔に似合わずまめな人だからホワイトデーを忘れているなんてことはないだろう。それならこの関係が自然消滅することを狙っているのだろうか。キャンプに出かける前まではそんな素振りを見せなかったのに。まさかキャンプ地で他に好きな女ができた?
落ち込むわたしをよそに、彼はテレビの中で必死にボールを追いかけている。あのボールがわたしなら良いのに、と思ってしまうのは仕方のないことだ。



「開幕戦白星が今年のお返しだ!」

いきなり訪ねて来るや否やドヤ顔でふんぞり返られても対応に困る。
どうして今まで会いに来なかったのかとか、メールも電話もくれなかったのかとか。問い詰めたいことはたくさんあったはずなのに、彼のこの一言で納得してしまった。全ては嘘を吐いたり隠し事をしたりするのが大の苦手なこの人のサプライズだったのだ。どうせチームメイトの誰かにそそのかされたのだと思うと不安な気持ちも心苛れもすっと薄れた。本当に愛しくて、ばかな人。
あの後ETUは試合に勝利して、それが無失点だったからか彼の機嫌はすこぶる良好だ。わたしがどんな気持ちで試合を観ていたかなんて知る由もない。
一方のわたしもまさか彼にそんな思惑があったのかと驚き呆れる。けれど、やっぱりピッチの上に立つ彼は惚れ惚れするくらい格好よくて、わたしの目を釘付けにした。そんな姿にやっぱりわたしはこの人が好きなんだなと再確認したのだった。

「ありがと、かっこ良かったよ」
「当たり前だ」
「でもやっぱりすぐに黒ちゃんに会いたかった」

背中に手を回して、逞しい胸に額を押しつける。離れている間どんなことがあったのかとか、キャンプでどういう練習をしたのかとか、何でも良いから聞かせて欲しかった。
今まで会えなくて寂しかった?わたしはすごく寂しかったよ。

「あ、と…悪い」
「ううん、全然悪くない」

頭をくしゃくしゃと撫でる手に元気がない。一方のわたしはそんな彼が可愛くて愛しくて、そしてやっと会えた嬉しさでにこにこしてしまう。

「クロちゃん、開幕戦初勝利おめでとう」

そうしてぎゅうっともっと強く抱きつけば、今気づいたみたいにやっと抱きしめ返してくれる。そんな反応にまた口許が弛んでしまう。
不器用でちょっと天然でまっすぐな彼と、来年のこの日も一緒に過ごせたらいいと思った。


END
:120329

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