001




月が高くにのぼる
夜風は妙に冷たかった

誰かが急ぎ足で駆ける音を聞けば
いつもと同じ彼奴の姿

心は体よりも速く、前へ前へと彼奴を急かす
その表情は、俺といるときよりも嬉しそうで
胸の奥の方が締め付けられるようだった

あの眼に俺はうつらない
いくら彼奴を目で追おうと
彼奴はそれに気づかない

言葉にしないと分からないのに
俺はいつも、あの姿を見るだけで言葉を失うのだ
声無き声は、いつもかき消される


俺はどうしようもないバカだ



夜の道を駆け
周りを警戒しながら、大門へと急いだ
薄暗くも月明かりが眩しい

外の世界に見つけた赤髪の少年を見つけ、嬉し気に笑みをこぼす彼奴に
思わず飲み込んでいた言葉があふれた




「コフネ」


『…!』





驚いたように目を丸くし
俺の方を見るコフネ
やっとこっちを向いたと思えば、フッとすぐに目をそらせる
眉間にしわをよせ、怪訝そうな顔をした



『…もう遅いよ、こんなところで何してるの?…サスケ』


「お前こそ何してる」


『……』


「…我愛羅とか言うヤツに会いに来たんだろう」


『…!』



我愛羅、その言葉を聞いた瞬間
コフネは険しい表情で俺を見た

一歩後ずさり、睨みつけるような眼を向ける



『……知ってたの?』

「たまにこの門の向こうで会ってるだろ」

『…火影様に言う?』



その問いに、俺は答えられなかった
火影に言ってしまえば、きっともうコフネは我愛羅に会えないかもしれない
もしくは、コフネが木の葉から追い出されるかもしれない
しかしそうなれば、俺はまたコフネを泣かすことになる


いつもそうだ
俺はただ、コフネに笑って欲しいだけなのに
あの笑顔を、俺にも向けて欲しいだけなのに

つまらない苛つきが俺を蝕んでいた




「言えば会わないのか」


『………出来ない

 我愛羅は私の全てだから』




その言葉
心臓が一度大きく鳴った

コフネは顔をあかくし、悲しそうな顔をしている
その姿があまりにも美しくて、愛おしくて

いつの間にか、コフネを胸の中に引き寄せていた





『サ…サスケ…?』

「…黙れ」

『…私…行かなきゃ』

「…行くな」




コフネは初め驚いた様子で
少し戸惑い、目を宙に泳がせ
「ダメだよ」と言って俺の胸を軽く押す

身体から離れる温もりに悲しさを覚える
ふとコフネを見れば、頬に伝う一筋の涙


泣かせた
俺は、またこいつを泣かせてしまった

何で泣くんだ
俺はお前の笑顔が好きなのに


涙を拭い、大門の向こうへと走るコフネ
外の世界で待つ赤髪の少年のもとへと急いだ



俺じゃダメなのか
どうして泣くんだ
どうして彼奴なんだ

俺はお前を――





そんなことを思うも、コフネは彼奴に抱き寄せられ、嬉しそうな微笑みを見せる
彼奴を見て笑い、その表情に、なぜか自分も安堵した

風が吹き
金の髪を靡かせた


崩れるように地に座り込み
頭を抱え
自分自身に失望する

俺はなんて愚かなんだろう





――俺はコフネを…

愛している…?―――





つまらない苛つきは

甘い独占欲へと変わっていった




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