ゆっくりと吐き出した溜め息を追うように目を開けた。


――俺は阿呆か。


ぼんやりと空に視線を預け、座り込んだコンクリートの冷たさに笑う。
空には三日月とも半月とも言えない中途半端な形の月が浮かび、雲一つ浮かばない夜空は風情の欠片も無かった。

花は盛りに、月は隈無きをのみ見るものかは

とは良く言ったもので、陰のない景色は明るくて見通しはいいものの、美しさに欠けた。
まるで今の俺の様だ。


――よく思い出してみろ、


ぐっと唇を噛んで、醜い激情をやり過ごす。

元々彼は、沢山の人に想いを寄せられていたじゃないか。
風紀の奴等や役員は勿論、一般生徒にも。
それを全く分かっていないアイツが誰にでも無防備なのは今に始まった事ではない。付き合う以前から、いや、知り合う以前からそうだったであろう彼の常じゃないか。


男の嫉妬は醜い。
彼の心は俺に向いていると分かっていても、些細な仕草に気が向いてしまうのは好きだからなのだろうか。

開き直りそうな私心を戒め、頭を冷やそうとしても全く上手くいかない現状に舌打ちする。



「…悠、」



出来れば隠し通したい感情と共に吐き出した言葉が夜に溶けた。
この音みたいに、醜い感情も消えてしまえばいい。
混沌とした夜の闇に、隠されてしまえばいいのに。



Keep the close



知られたくない。

お前に向ける感情の一部に、こんなドス黒いものがあるなんて。

絶対に、知られたくない。


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