親友に、恋人が出来た。
「あー…何だかなぁ…。」
「何がだ。」
目の前で、律儀にも自習課題に取り掛かっている親友を見て溜め息をついた。
コイツがモテるのは知っていた。だけど一度も浮いた噂は聞かなかったから、興味が無いんだとばかり思っていたというのに。
「…どこが良かったんだろうねー?」
「はぁ?」
ようやく課題から視線を外したヤツは、呆れた様に顔をしかめている。
「悠ちゃんはこぉーんなヤツのどこが良かったのかなーって。」
「阿呆か。」
下らない。とでも言うように吐き捨てられ、やっと向いたと思った視線は再び紙面へ移された。
「いや、だってさぁー」
じっくりと観察してみる。
男らしく整った顔。
声も悪くないし、細身に見える体は実は筋肉質だったりする(体育の着替えの時、ビビったなぁ…着痩せすごいし)し。
外見だけ見たら、完璧俺の負け。完敗。惨敗。
だけどさぁ…
「愛想悪いし。」
才色兼備な彼の欠点。
真面目(?)で律儀な彼は結構な現実主義者で完璧主義者。
「必要とあれば愛想位振り撒くっつの。」
淀みなく動くシャープペンシル。やっぱりこっちを見ることなくケロッと言ってのける。何でも無さそうな話し方の癖に、言っている事は案外非人道的だ。
「えー…」
「嫌いな奴等にまで笑顔振り撒ける程、俺は人間出来てないからな。」
まるで嫌味の様にチクリと俺を刺すことも忘れない辺り、本当厄介なやつなんだけどなぁ。
「俺だって人選んでますぅ。」
「へぇー。」
冷たいし。
「でも、大変なのはこれからだけどねー。」
仕返しとばかりに言ってやれば、さっきまで全然上がらなかった視線が、真っ直ぐに俺を見た。
「分かってる。」
いつになく真剣な顔に、少し驚いて見詰め返した。
愛想が悪いとか何とか言いつつも、結局俺はコイツを認めてる。
やる事はやる奴だし、頼りになるし、なんと言っても 親友だし。
「…頑張れ。」
苦笑気味に漏らした本音に、緋月も笑った。
そして、悪魔の様な台詞を吐いた。
「課題、出しといて。」
「えー?なんでー?」
「永城来るから。」
「へ?」
「逃げっから、後よろしく。」
「はぁー!?」
「なんならたぶらかしといてくれても良いぜー。」
「人でなしー!!」
後ろ手を振りながら教室を出ていった緋月。
頼りになるとか言った奴、後で覚えてろよ。
あの日僕らは若かった
(だけどどこか憎めない。)
(腐れ縁の神秘。)
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