過去話 中3


「卒業式なんか意味あんのかよ。」

「自分がダルいだけだろ?」


どうせ中高一貫なんだから、必要性は皆無だ。結局皆持ち上がりだし、教室でサラッと配ってくれりゃいいものを。
わざわざ式典にする意味は?
時間の無駄じゃね?
誰も泣かねぇし…あぁ、後輩は泣くのか。
イケ好かない緋月冬哉様が卒業だから。


チラリと隣を見ても、普段通りの悠。コイツが泣かねぇんだから相当情緒の無い卒業式だ。


――コイツも、泣くかな


緋月冬哉と違う学年だったら、離れがたさに泣くのかと、不意に思った。

そして、それが俺だった場合も泣いてくれるのか、とも。


高等部は、ここよりもっと規則が緩くなる。
親衛隊の存在も、高等部から許可されているから、これからもっと緋月冬哉に近付く機会が増えるはずだ。
相変わらず寮と食堂は別の様だが、ガードが薄くなるのは分かりきっていた。勿論、下側の奴等のガードは堅くなるが。(でも高校生ともなれば『体だけ』の関係も珍しく無いらしい)


「でも、良かった。」

「、何が?」


急に話し出した悠に驚きつつ、視線を向ける。
バーバリーのマフラーに鼻まで埋めて、少しぎこちなく目元が笑った。


「奈緒も翠も、同じ学年で。」


俺はそれを黙って聞いていた。
…別に可愛すぎて言葉が出ない訳じゃねぇから。


「泣いてる子見たら、凄く思った。」

「そりゃ、緋月冬哉も居なくなるし?永倉深雪も卒業だし?」


大概可愛らしく泣くのは、可愛らしい生徒だと決まっている。
悠が見たのもそれだろうと当たりをつけてわざと揶揄する口調で誤魔化した。


「…奈緒は?」

「あ?」


自棄に真面目な声音が気になって、視線を悠に向ければ黒曜石の瞳が煌めいた。


「奈緒も、泣いてくれる?」


不安そうに揺らいだそれに、俺は吹き出した。


「……なんで笑うの。」


不機嫌になった悠に、息も絶え絶えになりながら、しっかりと伝えた。


「そりゃ、泣くよ。」




Put me to trouble


お前にかけられる心配なら、嬉しいってこと。
お前に心配されんのも、嬉しいってこと。


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