あぁ、そう。

なんの驚きも無く、サラリと返事をした先輩に、正直拍子抜けした。


「だって、無駄だもの。」


肩を竦めながら、事も無げに言を続ける。


「分かるんだ。」


眩しそうに目を細めて、口元は緩く笑っていた。


「そんな顔してる。」


一目を忍んで体を重ねる。
それだけの関係で、お互い割り切っていた。
生徒会入りしている俺は仕様がないが、俺は先輩の名前すら知らない。
一度尋ねたが、答えてはもらえなかった。分かっている苗字から探すことも出来たけど、俺はそれをしなかった。

相手について、知らなければ知らない方がいいのだと、先輩は言った。

お互いがお互いの性欲解消の為の人柱なのだから、必要以上に関わる事は無い、らしい。
正直、そう言ってもらえた方が気が楽だった。

俺に恋慕の情を持った人を軽々しく抱けるほど人間腐っていなかった俺には、丁度いい。
そして、見目が綺麗だった先輩も、同じ理由だった。

煩わしい。と。

一度ヤった位で恋人気取りされるのはウンザリ。らしい。

お互い、丁度良かったのだ。
男同士だし、後腐れもない。
意思に反して溜まる現状を解消するために…。


「てか、またいい人探さないと…。」


ダルそうに言った先輩は、俺に視線を向ける。


「誰かいい人知ってる?」

「いえ。」

「だよねぇ…。」


はふりと溜め息を吐いて、先輩は立ち上がった。


「緋月君は、最高のセフレだったのになぁ。」


その背を黙って見送る。


「じゃあ、サヨナラって事で。」


ポンと手渡されたカードキーを受け取り、サヨナラと呟いた。


「いい恋しなよ、後輩君。」


最後まで飄々とした態度を崩さずに、重い扉が閉まった。

プッツリと切れた関係に、先輩が言っていた言葉が頭を巡る。


『たかがセフレって侮っちゃダメだよ。』

『好きじゃなくても、情が湧くから。』


「成る程…、」


情、ね。



計算された無関心


好きの反対は 無関心。


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