一分でも一秒でも(趙陸)
望んではいけない、と。
其れは相手と自分を傷付けたくないと言う、一種の防衛本能が働いた答えだった。
男色だからではない。
国が異なるからである。
互いに相手を慕わしくは思っているけれど、主君を裏切る事等出来やしない。寧ろ出来る様な人間に想いを寄せたりはしない。
決して砕ける事の無い強い信念、凛とした姿、眼差し。紡がれる言葉と戦場を駆ける姿は、酷く蠱惑的に双眼に映り、己を陶酔させるのにそう時間は掛からなかった。
「伯言」
「子龍殿」
互いを字で呼び合う。
其れは親密な仲と言う何よりの証拠で、二人は其の関係にとても満足していた。
然し、いつからだろう?
胸奥で抑制を掛けながらも、もっと先をと望んでしまったのは。
「出来る事なら、私は子龍殿と一緒に先を見たい。だから、」
そう陸遜が趙雲に一瞥をくれると、趙雲は従容と微笑み、首を縦に振った。
此れって結構、恥ずかしい事で勇気がいる事なのかも知れない。然し、彼は其れを受け入れてくれ……寧ろ彼も同じ事を望んでくれていると言う事か。
そう思うと陸遜の心は歓喜に満たされ、少し照れ臭そうに、はにかんで笑った。
「…長生き、しましょうね」
「…そうだな。出来るだけ、長く」
今の此の乱世、群雄割拠する此の時代、各々が天下を狙うのは当たり前。正義は事を成し得た者に、天下を統べる者に贈られる非情なる賞賛だ。故に、恋慕の情等国事の前では儚く踏み潰されてしまう。
ならば此の乱世に一日でも早い終焉を。
そして一日でも一刻でも、一分でも一秒でも、長く、長く生きようと思った。
“姓”でも“字”でもなく“名”で互いを呼び合える、其の日まで。
2009.9.16.終わり
水原様に贈る80000万打お祝い文です。
水原様、80000万打おめでとうございます。