君が咲いて僕も、咲いた。 | ナノ


 


 26.


先の見えた答えに抗う術は持ち合わせて無くて、ただ、想いに蓋をする事で自分を保とうとしてた。
だって、叶わない気持ちはどれだけ願っても霧散していくだけだから。



25.鍵を掛けて立ち止まった (月島)



東京に帰る
その選択肢が無いなんて、どうして逆に考えなかったんだろう。あのヒトが此処へ来たのは祖母の為で、それが解消したのなら戻る方が道理だ。
育ってきた場所、本来の家、そこに帰るのが普通で、此処は“帰る”場所じゃない。

それに、向こうにはあのヒトが特別に想う人達が居る。つまりあのヒトが選んだのは小さい頃から一緒だった彼等だ。
長い月日を重ねるた相手、そんなの、勝てる訳なかったんだ。


『花子先輩が好きです』


重い足を引っ張って体育館へ向かう途中、聞こえて来たのはいつもより固い西谷さんの声。
まさかこのタイミングで告白だなんて。答えなんて聞かなくとも分かってるのに正直よく言えるなって思った。僕には到底真似出来ない。


『アタシは、夕と恋愛したいとは思った事無いよ』


ほら案の定これだ。あのヒトが想う僕等に対しての特別と、彼等に対しての特別は違う種類のもので、そこに手を伸ばしたって届く筈が無かったんだって事。


「……馬鹿らしい」


これ以上、立ち聞きする気は起きなくて、僕はまた重い足を引っ張って体育館へ入った。
その後、暫くして西谷さんとあのヒトも戻って来たけど、意外にも2人は普段通りを振舞ってて驚いた。だからきっと誰も気付いてない。僕と、菅原さん以外は。


『花子先輩!一緒に帰りましょう!』

『うん、つっきーも一緒に帰ろ?』

「はあ」

『月島〜!もっと嬉しそうにしろよ』

「さして嬉しくもないのに嬉しそうな演技を強要してくるんですか?」

『やっぱお前可愛くねぇ!!』

『それでこそつっきーだし!』


こんな時でも一緒に帰る。
僕にはそんな思考回路が理解出来ないけど普通を装うなら普通で返さないと余計に気まずい。流石の僕でも当事者2人の前で核心に触れれる程のKYではないから。
ただ、どうしてあのヒトも西谷さんも変わらず隣に居られるのかは消化出来ずにモヤモヤ残った。


『今日も送ってくれてありがとう!また明日』

『お疲れっした!』


本当にいつも通り家の前で見送って。よくやるよと思ってあのヒトの背中が消えると、ハァ、大きい溜息が届いた。


「本当、馬鹿ですよね」

『なんだよ急に』

「西谷さんって、馬鹿過ぎて尊敬します」

『、まさか、知ってんのか?』

「フラれた事ですか?」

『おい!何で知ってんだよ!』

「そりゃあ、通り道で話してたら聞こえてきますよね」


まじかよ、項垂れてブツブツ文句言ってる姿に、フラれた自覚はあったのかと改めて思う。さっきまでは必死に普通を貫いてたのか、なんて黙ってると、西谷さんはフッと微笑んだ。


『それでも好きなんだよなぁ』


哀愁を混じえながらスッキリした横顔はいつもより大人びて見えて。僕よりずっと小さい背中のくせに、大きいとすら感じる。


『結局、今まで通り何も変わんねぇって事だな』

「…………、それでいいんですか?」

『良いも何も、急に花子先輩が嫌いになるなんて有り得ねぇだろ』

「嫌い、じゃなくても、好きなのは辞めないんですか?」

『だから、俺にとって花子先輩が好きじゃないとか有り得ねぇんだって!好きなもんは好きなんだから仕方ねぇじゃん!』

「……そういうもんなんですかね」

『お前だってそうだろ。じゃあまた明日な!』


届かなくたって変わらない。当然の如く言い放った西谷さんに、僕のモヤモヤはもっと濃くなっていく。
お前だってそうだろ、その答えにイエスなんて言えなくて、今の距離が変わらない様に、僕は口を噤むしかなかった。

(届かないなんて、無意味だと思ったから)



(20180617)



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