14.
喜怒哀楽くらい持ち合わせてはいたけれど、それを上手に表す方法は知らなくて、そんなものは子供の仕事だと思ってた。だから、格好悪いなんて一線を引いてブレーキを覚えたのに。
14. 素直に思う、憤り (月島)
『つっきー』
軽く身体を温めてボールを片付ければ、山口が愁眉な顔で僕を呼んだ。
『えっと、』
「なに?」
『試合、頑張って』
改めて頑張れと言われても。試合だからって急に強くなれる訳じゃない。即席チームと何ら変わらないこのメンバーでどうにかなる程、現実は甘くもない。
「いつも通りやるだけでしょ」
『でも、向こうは、』
(音駒の皆さん宜しくお願いします)
(こちらこそ宜しくお願いします)
どうせ部活なんだし、続けて言うつもりが言えなかったのは青筋立てて握手する主将2人が視界に入ったからか。それとも、その後ろで余裕を見せ付けるみたく口角を上げる連中が見えたからか。はたまた両者なのかは分からないけど。
一連のやり取りに、僕ですら腹が立ったのは違いない。
「まあ、やってみるから」
『、つっきー!!うん、頑張れ!』
厭に嬉々を浮かべた山口も、少なから苛立ちはあったみたいで。それなら僕だけにじゃなく皆に頑張れって言えばいいのに。
ふう、二酸化炭素を吐いてあのヒトを見れば、
「……………………」
菅原さんのお陰で静かになったのに、音駒の主将と眼を合わせて手を振っていた。
イラ、脳内の何処かでそんな鈍い音が響いて眉間に皺が出来る。
『月島、今のお前も見たな』
「西谷さん」
『マジで負けらんねぇ。烏野以外で花子先輩がはしゃぐのは見たくない』
「……………………」
あのヒトが誰にでも愛想を振りまくのは今に始まった事じゃないんだから騒ぐ必要なんて無いでしょ。数日前の僕ならきっと冷めた眼でそう言ったんだろう。
『昨日の約束覚えてるか』
「西谷さん……約束って何ですか」
『馬鹿野郎!昨日言ったじゃねぇか、共同戦線って!』
「あーあれって約束だったんですか。てっきり独り言かと」
『な訳あるか!』
でも、ザワつく心臓であの風景を見れば、
(花子、俺等強くなったからちゃんと見とけよ)
(確かに夜久は見違えるかもな)
(クロ、やっ君そんなに凄いの?期待しちゃうけど?)
(しとけしとけ、夜久は花子の為に最近特訓してたからなぁ?)
(黒尾は余計な事言うな)
(本当なの?やっ君超格好良い)
(ま、まあ、そりゃお前に心配ばっかかけてられないだろ)
(うん!なんか嬉しい)
途端スイッチが入る。
相手が誰であろうと変わらないあのヒトなんてどうでも良かった筈なのに、妙に鼻につく。
「……いいですよ西谷さん」
『ん?』
「今日は日向と影山見習ってプレイ出来そうなんで」
『月島、』
「その代わり、西谷さんがミスばっかだったら毎日肉まん貰いますから」
『ーーー馬鹿言え、俺を誰だと思ってんだよ。烏野に俺有り、だろ』
「口ばっかじゃないと祈ってますよ」
『おうよ!』
どうして、だろう。
あのヒトを見てると、西谷さんを見てると、熱くなる、それが当然みたく思わされる。たかだか部活で練習試合で何でもない事なのに、やれる事しか出来ない筈なのに、やらなきゃいけない使命感が湧く。
一直線にボールだけ追い掛ける日向と影山を見てると馬鹿みたいだって思ってたのに。上手く、乗せられる。
『行くぞ月島』
「はい」
そして試合開始のホイッスルが響いた。
サーブを打って拾われ、返ってきたボールを拾って打って。アタックすればレシーブ、アタックすればブロック、攻防戦を繰り返しながら、妙に大人しかった音駒は品定めが終わったかの様にこちらの隙をついて得点を始めた。
そんな時、あのヒトが『クロ』と呼ぶトサカ頭が前衛に上がって僕の前に立って笑顔を見せる。
『眼鏡君』
「、」
『他に比べて冷静で、頑張ってるとは思うけどな』
「………………」
『そんな簡単に取れると思うなよ』
「は、」
『ボールも、アイツも』
うざい
瞬間的にその三文字で頭が埋め尽くされて殺意が芽生える。まともに会話もした事の無い相手に人間はこうも黒い感情が生まれるものか。
もし今、この時代が戦国時代で刀を持っていれば直ちにぶった切ってる。何なら鉄バットでもいい。このトサカ頭を真っ二つにしてやりたい。
『お、おい月島、研磨達のチーム皆、お前見て引いてるって……!なんかうにょうにょ〜って、変なドス黒いオーラ出てる……!』
「黙りなよ日向……ついでにそのヒヨコ頭も真っ二つにするよ」
『ひぃぃっ!(何のついでだよ!)』
はあ、必然と出てくる溜息に、これが殺人的衝動かと生まれて初めて知った。
(都合良く武器になる物なんて無いし。モップでいけるかな)
(20180228)
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