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 h17. 愛、愛 (1/2)



光を見送った後、あの歌を繰り返して空を眺めてた。遠くで流れる色濃い雲を見て明日は雨なのかなって、雨が光の味方をしてくれますように、両手を合わせて祈った。


「光、早く会いたい…」


頑張って、無事に帰って、祈る言葉は限られてるけど今のアタシにはそれだけが全てだもん。他には何も、要らない。


「……、やっぱり無理」


月を見ていればその内眠たくなるだろって思ってたけど眼は冴えるばっかりで布団に潜る気にはなれなくて。
光を思い出せば隣に無い体温が恋しくて、だけど光しか考えたくない。本当、光が居ないと眠れないとか面倒臭いって自分でも笑える。

じゃあ、どうせ眠れないに代わりないんだし、庭にでも出ようと縁側へ向かった時だった。


『眠れないのですか?』

「え?」

『私も、明日が大きな戦かと思うと緊張してしまって…』


声を掛けて来てくれたのはいつも食事を運んでくれる下女の人で、自嘲気味に笑って落ち着けないんだと庭にある池の側で腰を下ろした。


「あの、良かったら少しお話ししても良いですか?」

『私なんかで宜しいのでしょうか?』

「そ、そんな、アタシの台詞です…」

『ではお言葉に甘えて』


あの人の隣でアタシも腰を下ろすと早速『これをお話しして良いのか分かりませんが、』そう言って言葉を続けた。


『財前様は人に冷たく、だけどお優しい方でした』

「そう、ですね…」

『反する者が居れば斬る、それは財前様に限られたことじゃありませんがあの方は躊躇いも無く冷静沈着、そして口数が少なく無関心なばかりに私は、あのお方を怖いと感じて居たんです』

「………………」

『けれど、冷えた眼の奥には寂しさが見えました。実際あの方に忠義を誓っている者には手を掛ける事はありませんでしたし、時折冗語をお聞きする事も出来て、きっと過去の環境が宜しく無かったんだと』

「過去の、環境?」

『財前様が三つになられたばかりの時、あの方は養子に出されました。それからも世継が出来れば他へ養子に出され、また別の場所へと繰り返して育たれたのです』

「――――――」


あの方は愛情を知らずに今を生きているんでは無いかと、
池が揺れるのを伏せ眼がちに見るなりあの人は立ち上がって『そろそろ失礼致します』と部屋へ帰って行った。


「3歳で養子、」


その時感じていたとしても3歳で養子に出されたなら家族の愛情なんて知らないに等しい。それからは義父母に育てられて、実の子供が出来れば追い出される、それの繰り返し……

“人間なんや信用出来ひん”

あの言葉はそこから始まったんだって分かると、アタシは光の事、何も知らなかったんだって…八つ当たりで池へ石を投げ付けた。


「アタシ、自分の事ばっかり…!」


光が優しいからアタシを好きなんじゃないのって、たった数日でも一緒に居たんだから信じて貰えるのが普通だって、じゃなきゃあんな風にショックなんか受けない。
この時代だから仕方ない、それが普通だから仕方ない、そう思うのは簡単だけど悔しかった。アタシが気付けなかったのもアタシが何も出来なかったのも、光にそんな思いをさせた周りも全部。

“名前とは対等で居ったる”

光は、始めからアタシに人としての暖かさを求めてたのかもしれない。


「…ごめ、んね、ひかる…ごめん、」


もっと伝えれば良かった。
嬉しい、楽しい、好き、有難う、アタシが思ってたこと。最低限の感情しか伝えなくて、察してくれて当然だなんて酷いよね、ごめんね光。

石を投げて広がる波紋を見ては、光が帰って来たらちゃんと謝ってちゃんと好きだって、もう一度伝えたいと誓った。


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