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 7.5 夢物語 (2/3)



あの日はちょうど、俺の仕事が漸く落ち着いて2週間ぶりに休みが取れた日曜やった。


『光、今日何食べたい?』

『寿司』

『じゃあ外食か宅配だよね』

「……ちょう待ってくれへんかな」

『何すか部長ー、寿司は嫌なん?』

「寿司でも何でもええ…いや、強いて言うなら名前ちゃんが作ったご飯がええねんけど…ってちゃうわ!そういう話しちゃう!」

『朝からテンション高過ぎ付いていけへん』

「せっかくの休みやのに何で財前が居るん?何で俺より旦那ポジションなん?可笑しいやろ?」

『しゃーないですわ、部長仕事ばっかで名前ん事放置してたし』

「せ、せやけど…」


放置してた訳やない。どれだけ午前様になろうと家には毎日帰ってたし作ってくれてたご飯も暖めて食べてた。ただ、名前ちゃんとゆっくり出来る時間が無かっただけやねん…言うてもそれが放置って言われるんやろうし、反論も出来ひんけど。


『アハハッ!ごめんね蔵、ちょっと拗ねてみただけ』

「名前ちゃん…」

『アタシの為に頑張ってくれてるのも知ってるから。ありがとうお疲れ様です』


ニッコリ笑った顔は仕事の疲れなんか吹き飛ばしてくれて、彼女がそこに居る、それだけで満たされる気分やった。


「名前ちゃんほんま好き」

『、そんな改まって言わなくても…』

「うーん?めっちゃ好きやねんから言いたくもなるやろ?」

『うわーおもんないしウザイし怠いっすわー』


俺が惚気て名前ちゃんが照れて、更に財前が悪態付いて。それすら日常の1コマになってたのに今日は何でやかもう一声あった。


『アタシも光に賛成ーっ』


……うん?
今の名前ちゃん、にしては声が幼過ぎるんやけど…?


『っていうかパパって超鬱陶しいよね』

「、」

『好き好き好き好きうっざーい』

『………………』

『……ど、どちらさま?』


テーブルに挟んで財前が居って俺が居って、横には名前ちゃんが居って。更にソファーには見知らぬ制服姿の女の子が1人。
この時だけは3人揃って間抜けな顔をしてたに違いない。
やって、自分の家に子供や言うても他人が居てるんやから。しかも一応オートロック付いてんねんで?


『アタシ?るくって言うの』

「、る、るくちゃん?何で此処に居るんやろか…?」

『っちゅうか変な名前…』

『アタシだって好きでこの名前じゃないし!パパと光から一字取ったって言うんだから仕方ないじゃん』

『ぱ、パパ?パパって、もしかして蔵が?』

『そうだよアレがアタシのパパ』


ちょう待って。ほんまに待って。
俺がいつこんな大きい子を作ったっちゅうねん。人ん家に上がり込んで変な冗談は止めてくれへんやろうか。


『うそ…蔵の、子供…』

『名前、あれや雪子の子供や』

『え…じゃあやっぱりあの時の妊娠は嘘じゃなくて……』

『否、あの後っちゅう可能性もあるで?』

『な、何それ、アタシが浮気相手ってこと?でもアタシ蔵と結婚して…』

「そこ!笑えへん妄想は止めなさい!」


こんな時ですらいけしゃあしゃあな財前には溜息すら出て来おへんけど…せやけどあの子が言う俺の“く”と財前の“る”を合わせればそういう名前にはなる。財前は知らん顔やけど、あの子が財前ん事を知ってるんは確かや。
どないなってんねん…


「るくちゃん、もうちょっとちゃんと説明してくれへんかな?」

『何を説明しろって?』

「えーと、まずどうやって此処に来たんや?」

『普通にオートロック開けて入った』

「……ほな、俺がパパっちゅうんは…」

『あ、アタシ未来から来たから!タイムスリップってやつ?』

「え、」


タイムスリップ?
タイムマシンで来たって?
どっかで聞いたアニメネタを使うなんや洒落た子やな…今時関西人でもそんなん言わへんで…。


『パパ疑ってるって顔』

「あ、」

『じゃあどうしたら信じてくれんの?パパの誕生日言えば良い?血液型?家の間取り?部屋番の理由?』

「、知ってるん?」

『当然じゃん』


肘を付いて横目で俺を映すあの子は、何処か上からな物言いやったけど全部言い当ててしもた。俺の誕生日も血液型も、部屋に何があるか、部屋番の由来も。

そんなん、嘘みたいやけど信じるしか、無いやろ…?


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