13. (2/2)
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『……で?』
「で、って?」
暫くして部室に戻ったアタシと光を憂愁に見てくる蔵に、パラパラ捲っていた求人情報から視線を移す。
『仲直りしたんなら何でまた財前は怒ってるんや?』
「あー、うん、本当は赤ちゃん出来てないからさ」
『は?』
「できたって、うっそぴょーん」
お茶目に言えば笑って許してくれるかなぁなんて安易に考えてたのに、肘を付いて顔を背ける光に続いて笑顔で青筋浮かべる蔵と眉間にシワを作る謙也。
そ、そんな顔しなくたっていいのに…特に蔵、怖いんだけど…!
『ゆき、』
「は、はい、」
『冗談で許せる嘘とそうやない嘘がある事くらい分かるやろ!何でそんな事言うたんや!反省しなさい!!』
「ごごごごめんなさ…!」
『至上最悪最っ低やな!』
「謙ちゃんにはそこまで言われたくないし!」
『何でそやっていっつも俺ばっかりやねん!!』
「だって謙ちゃんは『ゆき』……ごめんなさい」
ものっすごい顔して睨んでくる蔵は光よりも数段も格段も怖くって何も言えなくなる。
多分蔵の彼女になる子は色んな意味で苦労するんだろうな…とか浮かべながら逃げる様に求人情報誌に眼を向けた。
『まぁ俺が怒っても仕方ないし…ほなやっぱり就職するっちゅう事なんやな?』
「うん、早く探さなきゃね」
『これでええんちゃう?』
じゃあ怒らないでよ、突っ込みたい言葉を飲み込んで蔵に返事をすると黙りで怒ってたはずの光が求人に指をさしてて。
もう機嫌直してくれたんだって有頂天でソレを見ると“宛名書き”の文字。
なに、アタシに内職しろってこと?機嫌直った訳じゃないのね…
「やだよ、アタシ美容室とかいいかなぁって思ってるんだから」
『は?美容室?』
「手に職付ける時代でしょ?それに格好良いし」
『無理無理、それこそ専門行った方がええし不器用なゆきには荷が重過ぎや絶対無理』
「…そこまで言わなくてもいいじゃん」
やっとの思いで惹かれる求人ひとつ見付けたのに断固無理だって拒絶されて。機嫌悪くてもせっかく光が一緒に仕事のこと考えてくれてるのに先が見えなくて切ない。
アタシには光の元に永久就職しかないのかなって、またも馬鹿なことを考えてると、
『…そんな興味無い事から悩まんと化粧品販売員になったらええやん』
「え?」
『化粧品買うのも化粧するのも好きなんやろ』
「……………」
急に真面目な言葉が出てくるからビックリしちゃって…それに知らないフリしてる様でちゃんとアタシの事分かってくれてる。
通り過ぎたページを戻して光が開いたページにはアタシが好きなブランドの求人があったんだ。
「ひかる…!!」
『さっさと担任に報告したらどうや』
「ああ、もう超大好き!!」
『俺は嘘吐きなんや嫌いや』
「ごめんってば!そんな事言わないで!アタシ“財前”になるつもりだから!」
『……………』
「ちゃんと大人になったら結婚しようね?」
『……阿呆、』
あんな事言うんや無かった、そんな罰が悪そうな顔をする光に大好きを込めたキスをして永遠を誓った高校生最後の春でした。
darling, I love you!
(ゆきー、ええ事教えたる)(なになに蔵?)(財前が美容室拒んだんは男の客が居るからやねんで?)(え、ままままじで!?光っ、本当に!?)(部長究極にうざいすわ)(化粧品なら女の子しか居てへんからなぁ、職場も女の子ばっかりやろうし?可愛いなぁ財前は)(部長の存在が迷惑なんで早よ卒業して下さい)(えー、アタシもう少し光と高校生したいんだけど)(って言うてるで?俺が卒業したらゆきも当然卒業やからなぁ?)(……ゆきは留年すればええやろ)(どうしよう!光が可愛過ぎる…!)
darling END.
(20090413)
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