take.07
君と話すだけで
冬景色さえ鮮やかに色づいていく
take.7 冬空に翳した手
『ファーストキスはチョコの味?』
「な、な、な…!?何言うてんねん…!!」
『ええなぁ。俺もポッキー食うとけば良かったわ』
昼休み終了を告げるチャイムが鳴って教室へ戻るなり、ククク、と喉で笑いながら俺を見てくる白石。
ちょ、ちょっと自分が一歩か二歩進んでるからってやらしいねん!破廉恥や…!
「べ、べべ別にチョコのあ、味なんか、せえへんかったし…」
『あんだけ真っ赤になってよお言うわ。ま、向こうは初めてちゃうかもしれへんけど』
「へ、」
『財前とあない仲良えんならキスの1回や2回、その先もあったりしてー』
な、なんやて…!!
その先…!?その先ってまさか……
ああああアカンて!そんなんアカン!!
キスはともかく続きは付き合うてもないのにアカンやろ…!いや、キスやってアカンけど!!
せやけどアカンとかそんな問題やなくて…もし名前が財前とそういう関係やったら……
「…耐えられへん…」
『何落ち込んでんねん。大丈夫やって』
「元はと言えばお前が要らん事言うから悩みの種が生まれたんや!」
『はいはい、すんませんねー』
「ホンマ彼女以外には性格悪いな!」
『彼女と謙也比べたら彼女に失礼やから止めてくれへん』
「白石なんかもうええ」
実際どうなんやろか。
考えたって答えは出えへんけど。そんな事ないって信じてる。
□
「今日も居てるかな」
部活帰り、相変わらず俺は名前が働くコンビニの前まで来てて。
頭で考えて来る、っちゅうより、此処に来る事が身体に染み付いてしもてるんや。
入り口に近づくと、いつも通り制服のシャツを着た名前がレジに立ってた。
直ぐ隣でレジを手伝う同じ歳くらいの男がめっちゃ羨ましくて。客が居らへんなった途端、名前にニコニコしながら話掛けてた。
「馴れ馴れしくすんなや…」
何かめっちゃモヤモヤして今すぐ2人の間に入っていきたくなった。
もしかして、これが嫉妬っちゅうやつ?
……何か惨めやん。
こんなぐちゃぐちゃな気持ちが入り交じる中、入り口のドアを開けると、コンビニ特有のチャイムが鳴って『いらっしゃいませ』と聞こえた。
知り合ってから初めて来たもんやから少し照れ臭かったけど、レジの方を見たら俺に気付いた名前はニッコリ笑て手を振ってくれたんや。それだけでモヤモヤ感が吹っ飛んでいってしもて、ポッと暖まる気さえした。
『部活行ってたの?』
「うん、帰っても暇やし…」
スポーツドリンクとガムを持ってレジへ行くと、他に客も居らんから普通に話し掛けてくれてん。
隣のバイトの男は不思議そうな顔してるけど、そんなん関係ない。
『偉いね謙也。ここはアタシが奢ってあげる!』
「え、ええってそんなん!」
『いいからいいから』
ポケットから財布を出してちゃっちゃかお金を出して商品を俺に渡してくる名前。
男が奢ってもらうなんや格好悪いけど、それでも嬉しかった。
これ食べるん勿体ないわ…
『アタシもうすぐ上がりなんだー』
「え、そうなん?」
それやったら送ってってあげたらええんちゃうん?でも迷惑やったらアカンし…せやけどもしかしたら名前からのサインかもしれへんやん!!
謙也、照れてる場合ちゃうで!送ったる、一言そう言うたらええねん!!
「名前、せやったら『もう少しで光が来るんだよ』」
「え?」
『光が送ってくれるって』
「そ、なん…」
そういう落ちですか…!
めっちゃ期待したのに財前が迎えに来るんかい!ホンマ幼なじみって卑怯な位置やわ。
ちょっと、いや大分凹んだ俺に続ける名前。
『謙也謙也、明日も来てくれる?』
それは甘えてる顔そのもので、好きな女にこないな顔されてノーって言える男なんか居てへんと思う。
「…うん。明日も明後日も毎日来る」
改めるとこっ恥ずかしい台詞やって思たけど、言わずにはおれへんかったんや。
毎日、学校でも此処でも逢いたいって思てる事、伝えたかった。
『じゃあさ、』
「ん?」
『明日から謙也送ってくれない?』
「え?」
『面倒臭いと思うけど、アタシの事送って欲しいなぁ』
分かっててやってるん?
そんなん喜んでやるに決まってるやん…
「、ええよ」
『本当?約束ね!』
「…ほ、ほな今日は帰るで」
『うん!バイバイ!また明日ね謙也!』
完全に落ちてるわ。
名前と一言一言話す度に好きの気持ちが溢れてまう。
まだまだ名前の事、知らん事のが多いけど…もっともっと好きになるんやろなって。実感した。
そして外へ出ようとドアを開けてると後ろから聞こえてきた会話。
『今の人、格好良えけど名前ちゃんの彼氏ちゃうん?』
『違うよ。謙也が彼氏だったら嬉しいけどね』
急いでコンビニから離れて空に向けてガッツポーズ。
片想いでも俺は幸せでした。
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