take.16/reverse
伝えたい言葉はただひとつ
君が僕にとって特別だということ
take.16 〜reverse 春めく明日
ハッキリも何も、自分が言うた言葉に翻弄されてどうすんねん。
俺が居る公園か、謙也先輩が待つバイト先か。
どのみちバイトが終われば謙也先輩に会うのは確実やからその後どうなるか…
「…早まったんやろか」
上手く行けば、誰に遠慮することもなく堂々とアイツは俺のやって言える。
せやけど名前が謙也先輩を選んだら?
ホンマに“幼なじみ”も今まで作り上げてきた関係も全部、全部無くしてしまうんや。
「報われへんのも善いとこやんな」
浮かんできた昔のアイツの幼い顔に手を振る準備をした…
□
部活も終わって、一度家に帰ろうかとも思たけど、自然と足は公園向けて一歩ずつ踏み出す。
どうせ家に帰ったって何をするわけでもないし、結局はアイツでいっぱいやからバイトが終わるまで公園で待っとけばいい。
まだ30分以上時間はあるのに。こんな寒い中、俺が待ったるってレアやで。なんて馬鹿な考えを浮かべた時やった。
「…………」
街灯がひとつしかない真っ暗な公園にはキィ、と音を立てるブランコがあって。
自然現象とはかけ離れたソレに眼を凝らすと紛れもなく名前の姿が映る。
「名前、」
『あ、光ー!』
何で、居るん?
バイトは?謙也先輩は?
言いたい事はいっぱいあるのに、口に出されへん。名前が居てる、その事実だけが俺を満たしていくんや。
『今日はお汁粉じゃないけど』
「そこは汁粉にしとけや」
『文句言うならあげないもん』
少し温くなったコーンポタージュを渡されて、温いのに熱い気さえする。
『あのね、今日バイト休みなの』
「は?どうせサボりやろ」
『違うもん!本当は明日が休みだったんだけどシフト変わってって頼まれたんだよ』
「フーン」
ほな何でそう言わへんかった?
謙也先輩やってバイトや思てバイト先に来るんやろ?
『ひかるー』
「何や」
『アタシね、考えたの。光の事とか謙也の事とか』
「…………」
だから今日休みで良かったかもー。人の気も知らんと、そうのほほんと笑うアイツに変な苛立ちがあるけど…それでも誰にも渡したくないっちゅう独占欲が沸き上がる。
俺等は、ずっと一緒やったんや。これからもそうやろ?
『色々考えてー結論を言うとね、アタシはやっぱり光が好きだよ』
「、」
『だけどね、謙也も好き。謙也と一緒に居たいって思っちゃう』
「…………」
瞬時に溢れた喜びと幸せはシャボン玉の如く静かに呆気なく砕けた。
名前が必要なのは俺やない。突き付けられる現実に涙さえ出て来おへんほど痛かった。
『だから謙也に告白する』
「…それなら早よ行き」
『うん…ごめんね光』
ごめん?今そないな事言うなや。
なぁ、せっかく涙が出んて歓んだのに。瞼が熱くなるわボケ。
『でもね、光、』
「……………」
『アタシは、“卒業”したくない。っていうかしない』
何処にそんな力があるんやって言いたくなるほど強い力で締め付けられる背中に、俺も愛しい身体に手を回した。
彼氏彼女にはなれへんでも、特別な事に変わりはない。分かってた事やのに改めて思い知る。
『光、これからもアタシの事宜しくお願いします』
「嫌な役回りは御免やけど?」
『光には似合ってるよ』
「腹立つわ…」
『えー?嬉しいくせに』
「ホンマムカつく女やな」
ずっと、ずっと。
ずっとこうしたいけど。男は引きも肝心で、最後まで善い男を演じさせて欲しい。
「名前、もう行け」
『光は?』
「阿呆、俺が着いてってどないすんねん」
『やだ寂しい』
どっちが“寂しい”や。ホンマ阿呆やなコイツ。
「ほな、コレ付けていき」
『、マフラー?暖かーい』
「俺は寒いし帰るで」
『うん。光、明日も一緒に学校行こうね?』
「はいはい」
『ひかるー!大好きー!』
「もうええっちゅうねん」
謙也先輩。
アイツはまだまだ俺から離れられへんみたいですわ。
アンタがトロトロしとったら直ぐに足下掬ったるから覚悟しといて下さいね。“恋人”とか、枠に収められへん俺とアイツの絆を思い知るのはこれからですわ。
僕は
今日も明日も明後日も
君を想って君に笑う。
END
----------------------------
■落ちアンケート結果(01〜15話集計)
・総票数36184
・忍足謙也/21269票
・財前光/14915票
ご協力下さいました皆様、コメント一緒に添えて下さった皆様、本当に有難うございました!
←