sequel.15/story of final
Sincere love that wants to be sent to you (2/2)
アタシの質問に返事する事なく蔵はアタシの方へ近付いて、その指輪を手に取った。
『手、貸して』
「え、」
アタシの手を取って、ソレを薬指にはめる。
『名前ちゃん……俺と結婚して下さい』
「……………」
『これからもずっと、この部屋で俺の隣に居ってほしいねん』
急なプロポーズに動揺しないわけなくて。
キラキラ反射して光る指輪から目を反らせないでいた。
これは夢なんじゃないかって思うくらいフワフワしてる感覚だった。
『名前ちゃん、まだ俺は未熟やし頼りないかもしれへん。それでも名前ちゃんの事守ったる。幸せになるよう頑張るから、せやから…』
「夢、じゃないの……?」
正装でビシッと決まった蔵が少し赤く照れてて、指輪をつけたアタシの手を握る蔵の手が震えてて、何より指先から感じる暖かい体温が現実だと知らせてくれた。
『夢なんかとちゃう。現実や』
「蔵……」
『生涯、俺と一緒に笑て欲しい…』
幸せ、
そんな一言じゃ済ます事が出来ない感情にアタシは涙がボロボロ溢れて蔵が滲んでいくけど、それでも蔵の顔を見たくて涙を擦って擦って。
「アタシも、ずっと蔵と一緒に居たい、です…」
蔵の顔を見て、眼を見て、アタシも同じ気持ちだと伝えた。
その時の蔵は笑顔だったけど、緊張が解けたような安心しきった優しい顔つきだった。
「蔵でも、緊張したの…?」
『そ、そらするわ!プロポーズやねんで?』
「でもアタシが断ると思う?」
『……思わへんけど…万が一、っちゅう事が…あるかもしれへんやん…』
アタシが意地悪っぽく聞くと、拗ねたというか照れ臭そうというか、外方向いて頭をガシガシ掻いた蔵。
そんな様子が堪らなく愛しくて愛しくて。
「蔵、好き」
『…………』
「大好きだよ」
伝えずにはいられなかった。
幾ら言っても言い足りないけど、一文字一文字に気持ちを込めて。
『俺も好き、めっちゃ好きや…』
そして唇が重なった。
ほんの数分前まで怒ってたアタシなのに、苛々は何処か吹き飛んで、このまま蔵に堕ちていきたいとさえ思ってた。
その時、
『熱すぎてウザイわ』
「!」
『ざ、財前!』
いつから居たのか、光が眼を細めてアタシ達を見てた。
き、き、キスしてるの見られた?!
恥ずかしい……!!
「いつから居たの光!?」
『部長が指輪渡した辺り』
つまり最初から居たんじゃん…!!
何で黙って見てんのよ!
『財前、お前帰るって言うてたやん…』
『せやけど部長が鍵忘れてったからわざわざ届けに来たんやん』
『鍵くらい玄関にでも置いとけばええやろ!!』
『あー、気つきませんでしたわー』
『嘘や!絶対嘘や!わざとやろお前!』
『ホンマうっさいな』
『どっちがや……!!』
鍵?そういえばプロポーズに気取られてスルーしてたけど、この部屋……
「あの、この家は…」
『あー、言うてへんかったな。この家は財前が選んでくれたんや』
「光が…?」
『仕事忙しかったんもあるけど…財前が選んだ家やったら、名前ちゃんは幸せになれるんやないか思て。無理言うて俺が財前に頼んだんや』
「本当に?光が……」
『…………』
アタシの為に探してくれたの?
「あ、だからこの部屋番号、光の誕生日なの!?」
『正解』
『は?ホンマに言うてるん!?0720…ホンマや、財前の誕生日…何でやねん!そんなオプションは要らへんやろ!!』
『これから誕生日は毎年此処で祝ってもらおか思てー』
『いやいやいや、おかしいやろそれ!』
光が用意してくれた部屋でアタシは蔵と生活していくんだ。
こんな贅沢な話、きっと他にはない。幸せになれない訳がない。
「光、有難う…」
『……幸せにならなアカンで?』
「うん……」
光がアタシの頭を撫でてくれると、止まってたはずの涙がまた溢れちゃって。
「ひかる、好き…」
『え!?名前ちゃん!?』
『ほな、俺と結婚する?』
「したい…」
『ちょちょちょちょ、ちょお待って!!それはアカンて名前ちゃん!ホンマ勘弁して!』
「アハハ、嘘だよ」
『そういう冗談要らんわ…』
『俺はかまへんけど』
『うっさいわ!』
アタシには、大好きで大事すぎる人が2人居ます。
『あ、せや。お祝い持ってきたんやった』
「お祝い?」
『時間無かったしただのケーキやねんけど』
『財前気ぃ効くやん』
『部長にあげるとは言うてへん』
『は?お祝い言うたやんけ…』
それは、大好きな旦那様と大好きな親友。
『とりあえず名前が食べなアカンやろ』
『そらそうかもしれへんけど…』
2人が笑ってる限り、アタシも笑ってる。
『名前ちゃん。俺も財前も名前ちゃんの事が誰よりも大事やから』
『名前、おめでとう』
「………っ、」
だからアタシも正直に気持ちを届けるから。
「あり、がとう……蔵も光も、大好き……!」
2人が、“欲張りや阿呆”ってアタシの頭をくしゃくしゃにしたこの日の笑顔と、光が口に突っ込んできたケーキの甘さは絶対忘れない。
Sincere love
君に届けたいのは誠実な愛です。
(sequel.16/sequel story END)
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