sequel.10
bear fruit (1/1)
もし、
この世界が光と影のふたつしか存在しなかったとすれば
僕は君の影になりたい
ずっと離れない、いつも傍に居る為に
sequel.10
bear fruit
「………」
目の前に広がる光景に思わず立ち尽くしてしまいそうになる俺。
やっと彼女に会って、彼女に触れる事が出来る。そう思てたのに既に別の男の腕の中。
もしかして俺、もう見放されてしもたん……?
“アタシは蔵じゃないと駄目なの”
ううん。んな事ある訳ない。
俺が信じへんでどないすんねん。
きゅっ、と歯を食い縛って2人の元へ足を進めた。
こっちの様子なんか気付きもせん忍足から、名前ちゃんの腕を掴んで引き寄せる。
『、?!』
『!!、白石…?』
「…悪いけど、返してもらうで」
忍足を睨んだ後、視線を下に向けて名前ちゃんを見ると、これまでにないくらい眼を丸くして愕然としてた。
ごめんな、待たせてしもて。
『く、ら……?』
「うん」
『ほんと、に?』
「幻にでも見える?」
『見えない、けど……』
眼を左右に動かせて状況を把握しきれへん彼女をぎゅっと抱き締めると、柔らかくて暖かくて、此処が俺の居場所なんやなって。改めて思た。
『ま、待てや白石…お前は名前ちゃんと別れたんちゃうんか?』
恍惚する俺を余所に、忍足は納得してないという態度で俺の肩を掴んだ。
別れた?
何阿呆な事言うてんねん。
「いつ俺が名前ちゃんと別れる言うた?」
『え…?せ、せやけど昨日名前ちゃんにもう会われへんて…』
「別れる、なんか言うてへんで」
口が裂けたとしてもそないな事言わへん。
俺には彼女が必要やねん。離す気なんかさらさらない。
そら俺かて昨日は、もう終わりや、とか思てたけど……せやけど終わりなんか口に出せへんかった。
言葉にする勇気なんか無くて、これからも彼女と一緒に居りたい、って……もし離れてたとしても、心はずっと一緒に居るって信じてたから。
『で、も…会わへん言うて何今更現れてんねや……』
「……………」
幾ら昨日の事やとは言うても、確かに今更って思われても仕方ないわ。
もしかしたら名前ちゃんやって思とるんかもしれん。
せやけど俺は……
「名前ちゃんが好きやから。それ以外に理由要るか?」
『蔵……』
『…………』
財前に気付かされた、っちゅうのは癪やけど……せやけどアイツには感謝してる。
今回、名前ちゃんを守ってやったんはアイツかもしれへん。
でも。
「名前ちゃん。これからは俺が、何があったって守ったる」
『…………』
「せやから…これからもずっと、俺の隣に居ってほしい……」
二度と君を泣かせたりなんかしないから。
ずっと笑わせてみせるから。
だからお願い。
僕と同じ道を歩いていてほしいんだ。
『あ、当たり前だよ…アタシは蔵が、好きなんだよ…?』
「ん……」
泣き虫な彼女が見せる涙はいつも綺麗で、拭ってあげる俺の手の方が浄化してしまいそうな気がした。
泣かせたりせん、そう誓った俺やけど。やっぱり幸せ涙は何度やって見たい。
俺を想て泣いてくれた分。その分必ず俺が幸せに変えるから。
『なんやねんお前等……』
『ゆ、侑士君!』
『…………』
『ごめん、ね……アタシは、『それ以上言わんで』』
「忍足…」
忍足は眼鏡を外して溜息を吐いた。
それと同時に、パキン、と自らソレを割ってしもた。
『侑士君…!?何で眼鏡、』
『……俺も、しっかり前見よかなー思てん』
『……え?』
『俺な、俺……白石の事が好きな名前ちゃんが好きやったで』
「……………」
『侑士、君……』
『白石。お前は嫌いやけど、そういう事にしといたるわ』
「…一言多いっちゅうねん」
背中を向けて手を振るアイツは、失恋直後やなんて思えんほど格好良かった。
男から見ても格好良いと思うんは、本物やと思う。
「名前ちゃん、モテモテやんなぁ」
『え?!そ、そんなモテモテなんて……!!』
顔真っ赤にしてワタワタ焦る姿が可愛い。よお見てた顔やのに懐かしく感じてしまうんは、昨日という時間がとてつもなく永かったからや。
その時間を埋めたくて、一瞬も離れたくなくて、再び彼女を引き寄せる。
「ちょお、近く居って……」
『くら、?』
「……めっちゃ好きや。好きで好きで、頭おかしなりそう」
『…アタシ、も…』
愛してる
その詞を合図に俺等は深く深く堕ちていく。
(story.10 END)
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