story.8
The world that turns around you (2/2)
『ホンマ甘いわアンタ』
「っ、財前!?」
俺の後ろで壁にもたれてた財前。
お前、いつの間に?
っちゅうか煙草なんか吸うて…
何考えてるか分からへんアイツやけど、財前も俺と同じで外で煙草吸う事は無かった。
それは、アイツが本気でキレてる証拠。
『アンタ、昨日あの子と一緒に居た……』
『河崎梓。お前痛い目見んと分からへん女やな』
「財前、」
『後は俺に任せてくれません?部長は甘すぎんねん』
「せやけど、」
最後は俺が収拾つけなアカン問題や。
財前に甘えてばっかりしてたら……
『ええから。アンタは早よアイツんとこ行ったって』
「…………」
財前のこの行動こそが名前ちゃんへの想いそのもので。
決して俺の為やない、全部彼女の為。
いつかアイツが言うてた言葉を思い出した。
“優しさは惚れた女にしかあげんでええ。それ以外の奴傷つけてしもてもかまへん。それが筋ってもんちゃいますか?”
それは今も変わらずアイツが思てる事なんや……
ホンマは俺に腹立ってるはずやのに、自分が行ってやりたいはずやのに、名前ちゃんの気持ちを尊重する。
でかい男やねんな…財前。
「分かった、行って来るわ」
お前が俺を認めてくれるように、俺もでかい男になる。
何よりもでかい気持ちで名前ちゃんを包んでやる、幸せにする。
せやから、いつかお前が…
“アンタになら譲ってもええ”
そう思てくれたら………
『ちょ、ちょっと!何処行くのよ蔵!!』
『待てや』
『何よ!私はアンタに用事は無いんだから!』
『そら困るわ。俺はお前に話したい事いっぱいあんねん』
『………』
『ゆっくり話ししよやないか、河崎梓…?』
『っ、………』
俺は走った。
名前ちゃんに会いたくて、名前ちゃんに謝りたくて、好きやって伝えたくて……
「今行くから……!」
普段なんてことない学校と名前ちゃんの家までの距離がめちゃくちゃ長い道程に見えた。
1分、1秒も惜しい。
早く彼女に会って笑顔を見たかった。
昨日痛い思いさせた分、償いたくて。
「ハァハァ、…ハァ…やっと着いた…」
全力疾走して12分、漸く彼女のアパート前に到着。
たった1日ぶりやのに酷く懐かしく感じて、そんな自分に笑ってしまいそうになった。
やっぱり俺は、彼女無しじゃ駄目や。
軽く息を整えて部屋に向かおうとすると、名前ちゃんの部屋の前辺りに抱き合うてるカップルが見えた。
「昼間から見せつけてくれるな…部屋ん中でやれっちゅーねん…」
呆れ顔で見てた俺やったけど、良く見るとそれは……
「名前、ちゃん……?」
会いたくて仕方なかった本人、忍足に抱き締められてた俺の彼女やった―――…
(story.8 END)
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