story10.
A true thing is spoken (1/3)
心の声を教えて
貴方は何を思って何を願う?
貴方と同じ夢を見たい
なんて貴方も思っていてくれるならば私はそれ以上何も望みなどしない
story10.
A true thing is spoken
名前ちゃん!?
名前ちゃん!!
名前――…
蔵が、アタシを呼んでる気がする。
本当にアタシを呼んでるの?
他の人じゃなくて?
「く、ら………」
『名前ちゃん!どないしたんや!?何で、何で泣いてんねん――……』
さかのぼること数時間前。
「1人でご飯なんてひもじい…」
授業が終わって軽く友達と話した後、アタシは家に帰った。
その時、友達に蔵の事を聞かれて“あんな格好良い彼氏羨ましい”なんて言われて嬉しくてヘラヘラしてたんだ。
にも関わらず、家に帰ると今朝まであった蔵の荷物が無くなってて。当たり前だけど妙に寂しくなった。
適当に残っていた材料で夕御飯を作ったんだけど、1人で食べるなんて切なくて。昨日蔵と笑いながら食べた事が頭から離れなかった。
「散歩がてら、コンビニでも行こうかな」
気分転換のつもりだった。
アタシは小銭と携帯だけポケットに詰め込んでコンビニに向かった。
コンビニではアイスとビタミンドリンクを買ったけど…。
「、全然気分転換になんない」
思い出すのは蔵ばっかりで。
この短期間にどれだけ蔵に惚れてしまったんだろうかだなんて呆れ笑いが出る。
蔵を思い出すだけなら良かった。だけど、アタシの脳裏に過ったものは…
蔵の、酷く歪んだ顔だった。
昨日花火をして帰った時の歯を食い縛った顔。
侑士君が引っ越しで挨拶しに来た時の怒った顔。
その後の落ち着かない顔。
気になるけど、聞いてはいけないような雰囲気で。
アタシには何も言ってくれないんだって悲しくなった。
「今頃、バイト頑張ってるのかな…」
我儘だって分かってるけど、会いたくて会いたくて仕方なかった。
バイト行かないでって言いたかった。
せめて、バイト終わったら来てほしいってメール打ってみたけれど送る勇気がなくて削除した。
アタシは、弱い人間だ。
弱くて、馬鹿で、我慢なんて出来なくて、手に取った携帯を発信したんだ。
《もしもし?》
「ひか、る?」
《どないしたん》
「別に、用は無いんだけど…」
《……部長と何かあった?》
発信先は蔵じゃなくて、光。
「ま、まさか。何も無いよ」
《せやったら何で俺に電話したんや?》
「…………」
《喧嘩でもしたんか?》
「してない…」
《まぁ部長が名前に怒るとか有り得へんよな》
「そ、かな…そんなの分かんないよ」
そうだ。
蔵が怒らないなんて言いきれない。現に一度怒鳴られたことだってある。
もしかしたら、蔵はアタシに怒ってるから何も言わないのかもしれないから。
《……今から、家来る?》
「え?」
《話なら聞いたる》
「光……」
《部長の代わりならなんぼでもなったるから》
普通に嬉しかった。
こんなアタシを心配してくれる、その手を掴みたかった。
「ひかる……」
《…………》
「ひかる、会いたい…」
《今何処?》
「中央通り抜けた、コンビニ…」
《名前、迎え行ったるからコンビニの中で待っとき》
「光、」
《5分で行く》
ツーツー、と無機質な音が聞こえた瞬間、我に返った。
アタシ、今何て……
光に、何て言った……?
“会いたい”
アタシ、なんて事……!
光には光にだけは頼っちゃいけないのに。
直ぐにメール画面を開けて、光に送った。
“ごめん。今の忘れて”と。
蔵に謝らなくちゃ。蔵に…
つい、な事とはいえアタシは他の人に頼ってしまった。最低。
『あれ、もしかして名前ちゃん?』
「!」
『何してん…ねや…?』
「侑士君……」
自分を責めていた時に現れたのは、侑士君だった……
「ど、どしたのこんな所で!偶然だね、買い物?今アタシもコンビニで買い物してて帰るとこなんだ!」
『名前ちゃん』
「じゃあアタシはこれで『名前ちゃん!』」
背を向けたアタシの肩を掴んで侑士君はニッコリ笑っていた。
『そない泣きそうな顔した女の子、1人で帰らせるほど冷たい男やないねんで』
「…………」
『なぁ名前ちゃん。俺の話聞いてくれると嬉しいんやけど?』
「侑士君……」
無理矢理アタシの話を聞こうとはしない、侑士君は出来た人だと思った。
『ほんでな、謙也は言うたんや。俺が好きな子にフラれたんはお前のせいやー!っちゅうて』
「えー、じゃあ告白してフラれたのは侑士君のせいにしたって事?」
『せや。アイツ自分がフラれたん認めたなくて勝手に俺のせいにしてもうて。俺が何したっちゅうんやって話やろ?』
「アハハ!面白いね謙也君て」
『アイツは馬鹿なだけやねん』
帰り道、侑士君はアタシを励ますように昔話を面白可笑しく話してくれた。
それにアタシもついつい笑っちゃってさっきまで落ち込んでた気持ちが吹っ飛んだ気分だった。
『元気出たみたいやな』
「あ、ごめん、なんか気遣わせちゃったよね…」
『ええねん。お互い様やろ?』
「……有難う」
『名前ちゃん。今から俺飯食べるんやけど、1人や味気ないやん?飯食べる間だけ、話相手なってくれへんやろか?』
「うん。いいよ」
元気づけてくれたお礼、といえば大袈裟かもしれないけれど、そういう意味を込めてアタシは快く了解した。
『お茶でかまへんかな』
「あ、いいよいいよ!アタシさっき買ったジュースあるから!」
『さよか。堪忍な、何も無くて』
「気にしないで」
侑士君の部屋は、引っ越したてのせいだろうか、がらんとしていて。
蔵も物はあんまり無かったけど、それとはまた違う感じがした。
ここは生活感が無い、感じ……
『なぁ、名前ちゃん何かあったん?』
「え、」
『言いたないならええねんけど、俺で良かったら力になれたらって思て』
侑士君になら話してもいいかな。
光は、アレだけど…男の子になら蔵の気持ちも分かるかもしれない。
そう思ったのが間違いだった――………
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