Sincere love | ナノ


 

 story6.
  You who are reflected (1/2)




決して特別なんかじゃないの
何処にでもある愛

それでも貴方は私のかけがえない人





story6.
You who are reflected





頭が真っ白になる、というのはこういう事なのだと思った。

アタシの手から渡されたタオルがスルリと抜ける。



「…………」

『名前。部長の後輩の前に俺かて1人の男やねんで』



かろうじて、理解しようとする意識はあった。

この現状をどうすればいいのか。
アタシは、光にキスをされたんだと。

だけど。



「アタ、シ………」

『      』

「!」



だけど、蔵の顔を見た瞬間その意識さえもぶっ飛んだ。
蔵は、全てに絶望したかのような表情だったのだ。
アタシが蔵にそんな顔をさせたんだ。



「く、…ら…」

『     』

「蔵……」

『!』



脱け殻のような蔵を見てるのが辛かった。その原因が自分だということが悔しかった。

縋るように蔵の名前を繰り返すと、蔵はハッとしてアタシに視線を向けてくれた。



「蔵、アタシ……」

『、来て』



その一言で、アタシの腕を掴んで部屋から抜けていく。

痛い、腕に込められた力は普段考えつかないくらいで、蔵の心なんだって思った。

痛いよ。蔵…


バタン!と勢い良く開いた蔵の部屋のドアは、その反動でカチャ、と静かな音で閉まった。



「…ごめ、なさ…い…」

『何で謝るん』

「だ、って、」

『名前が謝るような事してへんやん』

「、でも…」

『謝んなって言うてんねん!!』



蔵の叫び声と壁を殴る音がアタシの身体中に響く。
優しい、笑顔の彼は何処にも居ない。

アタシは力が入らなくなってその場にしゃがみこんで、ごめんなさいごめんなさいと馬鹿みたいに心の中で繰り返した。



『……堪忍…頭冷やさなアカンな、俺…』

「……………」



ふっ、と蔵の表情が和らいだ気がした。
それでも、遠い目をする彼に涙が溢れてきた。



『ごめん、名前ちゃんごめんな…怒鳴り付けて怖がらせるつもりなんかなかってん…』



違う。
怖いから泣いてるんじゃないよ。



『財前の気持ち、どっかで分かってたんや…せやけど、勘違いやって向きあおうとせえへんかった…俺が悪いねん…』



光は、蔵の昔からの友達なんだ。
大事な友達が裏切った。ううん、分かっててこんな事になった。
アタシが傷ついたんじゃない、蔵が傷ついたんだ。

人は、なんて浅はかで脆い生き物なんだろうか。



『名前ちゃん…それでも俺、お前が好きや。名前が好きで好きでたまらへん』



心なし、震えてるように見える彼が、不謹慎にも愛しいと酷く冷静に思う。

彼の口から零れる愛の言葉は、なんて温かいんだろうと。



「蔵、アタシが好きなのは蔵だけだよ」

『名前ちゃん、』



アタシは大胆にも蔵にキスをした。
アタシの気持ちが彼に届くように祈りを込めて。



『……慰めてもろてるみたいやな』

「うん」

『も1回、ええ?』

「うん…」

『消毒、や……』



名前

名前

何度も、何度も、名前を呼ばれてお互いを確かめるように今日アタシ達は初めてのキスをした。

光とは比べものにならない、蔵の優しくて心地好い唇にアタシの脳ミソは溶けちゃいそうだった。




  □




「、ん……」

『おはようさん』

「く、くくく蔵!?」



気付いた時は窓から太陽の光が入っていて、朝だと気付くのに訳なかった。

っていうかアタシ……!
蔵の部屋で寝てたの!?

すぐ目の前には裸の蔵が居て。
え!?裸!?
……あ、良かった、アタシ服着てる。



『名前ちゃんおはようの挨拶はー?』

「へ?!おは…って、あ、そのっ……!」



可愛く甘えてキスをしてくる彼に、朝から思考が止まりそう。

昨日は勢いってもんがあったけど、いざこう普通になるとやっぱり……恥ずかしい……!!



『ホンマは名前ちゃん襲いたかってんけどなー。昨日あのまま寝てしもたから』



記憶が無いとこを見ると、あのキスのままアタシは寝てたんだろうか。

アタシあり得ない。
本当に脳内溶けたらしい。

ベッドから出てグーッと身体を伸ばす蔵。
や、やだ!パンツしか履いてない…!ボクサーパンツ素敵…鼻血出そう。



『せやからー、』

「?」

『今から、スル?』

「え、スルって、何を…」

『俺と名前ちゃんの愛の為に。ええこと』

「ええ!?や、ちょ、待って!アタシここここ、心の準備が、」



ガバーッと布団を手に覆い被さってくる蔵、アタシは頭がパンクしそうだった。その時。



『何やってんねん』

「!!」

『財前…また邪魔しにきよったんか』



昨日と同じパターンで光登場。
登場って、そんな呑気な事言ってる場合じゃない。
どうしよう、今は光と会うのは……



『もう立ち直ってんスか。面白ないですわ部長』

『当たり前や。お前なんか一々気にしてられへんねん』

『よー言うわ。昨日死にそうな顔しとったん誰ですかねー』

『やかましい。言うとくけど、やらへんからな』

『それは部長が決める事とちゃいますやん』

『アカン。名前ちゃんは俺のや』



あれ?
あれれ?

この会話……なんていうか……



「2人は、仲良し…?」

『『誰が仲良しやねん!!』』



アタシの発言に噛み付くように見事にシンクロした2人。



「プッ、アハハハ!ウケるー!」

『名前ちゃん笑うとこちゃうねん』

『俺とこないキショい人一緒しやんで』

『財前もう一辺言うてみぃ!』

『何度でも言うたるわ。部長キショいです』



昨日の出来事はなんだったんだろう、アホらしー。なんて思えるくらい穏やかな今日が、幸せだなーと思いました。




…1/2 page
prevnext



人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -