03-1
どんなに拒んでも足掻いても変わらないリアルな今に、無力過ぎる自分に涙が落ちた。
「名前、部活行くで?」
『……………』
翌日、一緒に部活へ行こうと何食わぬ顔で名前を迎えに行った。
俺を見た彼女は茫然として言葉を失ったみたいやった。それもそうか、こない眼腫らせてたら驚くやんな?ごめんな。
「ほら、行くで?」
差し伸べれば指を絡める、それがいつもの彼女。
『行きたく、ない』
今日の彼女は、違う。
「……、アカンよ」
『嫌、行きたくないから行かない!』
「行くんや!」
『…嫌だよ………だって…アタシ、きっとロクに仕事出来ない…本当はこの間だって、ドリンクの作り方、分からなかった…』
「……………」
そんな簡単な事も分からへんなるやなんて…辛いねんな…俺に理解出来る域やなくもっともっと…
堪忍な、変わってやれるもんなら変わってあげたい。昨日もずっとそう思ってた。何で名前なんやろな?神様は意地悪や…
でも、闘わなアカンやろ…?
そんな病気、名前が笑てたら吹っ飛んで行く気がしてならへんねん。せやから一緒に頑張って欲しいんや…
『アタシなんか居なくたって…所詮、マネージャー、だし』
「―――」
それまで気持ちを汲む様に下手に出てた俺やけど流石に許せん言葉やった。
パチン、と乾いた音が響いて頬を押さえる彼女。
痛い?痛いか?
「ふざけたこと吐かすなや…」
『え、』
「名前はどうでもええって思いながらマネージャーやっとったんか」
『ち、違っ……!』
痛くて当然や。今名前が言うた事はそれなりの代償があるんやで?名前が、名前が居らんでええなんか…誰が思てんねん…
「名前かて仲間やろ…?一緒に、全国行くって頑張ってきたやん…」
『く、ら…』
「病気がなんやねん。忘れたってええやん!もう1回覚えたらええんやないんか!」
『……………』
自分でも無茶苦茶な事言うてるのは分かっとる。せやけど嫌やねん…名前が居らんでもええっちゅう考え方だけは嫌や、嫌や、許せへん…
「俺は名前が必要やねん…アイツ等かて同じや。そんな……、病気なんかに負けんなや…」
当たり前が脳から消えていくのがどんなに怖いか、そんな事きっと本人にしか分からへん。でも、いつか俺も消えてしまうんやって考えたら、残された方もキツイんやで…?
それでも俺は名前の傍で、名前の力になったる。忘れてしもたらその分教えたる。ドリンクの作り方も、俺の事も全部教えたるから…
そないな事言わんで欲しいねん…
『っ……蔵、部活遅れちゃう、』
「名前、」
『早く行こう?』
…名前、やっぱり笑てる顔が可愛い。一番好きや。
「せやな、部長が遅刻なんかしたらアイツ等に顔向け出来ひんわ」
『、だよね』
今度こそぎゅっと絡まった手に心底生きてる暖かさを噛み締めた。
□
『お前等遅いわー!』
「堪忍、名前がちんたら支度しよってから」
部室のドアを開けた時、とっくに部活開始時刻は過ぎていた。
『そ、なの、ごめん遅くなっちゃって』
『ホンマしっかりしてやー』
『名前が美味いドリンク作ってくれたら許すわ』
『皆……』
『何辛気臭い顔してるんスか』
『わい名前は笑とる方が好きやで?』
『せや、笑わな校庭10周』
それでも迎えてくれる仲間が居る。
なぁ名前?
名前の居場所は此処やろ?
此処で、これからも皆と頑張っていくんやんな?
『もう…アタシが運動駄目なの知ってて酷いなぁ!』
泣く事なんやあらへん。
名前が居って俺等が居る、それが“当たり前”なんやから。
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