D/O/Y | ナノ


 


 act.6 (1/2)



「おし、仁王行こうぜ」

『そうじゃな』



部活が終わって、名前を迎えに保健室へ。
本当は俺1人で迎え行って送ってやりたかったんだけど。仁王も状況知ってるわけだし、名前が連れてかれたって教えてくれたのは仁王だし。これで貸し借りゼロになればいいだろぃ。



「それにしても、応援してくれんのは有難いけどあーゆう陰険な奴等はなんとかならねーのかな」

『女っちゅーのは独占欲強いからの』

「独占欲強いって…俺等はアイツ等のもんじゃねぇんだけど」

『同感。』

「ハァー」



そんな感じで保健室へ向かうと、保健室のドアが開いていた。



「あれ、ドア開きっぱなしじゃん」



いつも先生が居ようが居まいが生徒が居ようが居まいが保健室のドアは閉まってるのに。

不思議に思いながら近づいてくと、名前が寝てるベッドに人影。
アイツ起きてんのかな。



『…ブンちゃん、待ちんしゃい』

「え? ………!!」



仁王に肩を掴まれて呼び止められると、人影が動いて。
カーテン越しに見える黒い影はベッドと重なるように覆い被さった。



『こっち』

「にお、」



仁王に言われるがまま、保健室の隣にある男子トイレに隠れた。

え、
い、今のって、今のって。
…あんな姿勢、それは1個しか思い当たらない。



「に、仁王。今の…」

『間違いなか』



キス。

キスした、絶対。
仁王が間違いないって言ったら絶対間違いない、正解。

キスだなんて、頭ん中は整理しきれなくて、そうしたらすぐに保健室から足音が近づいてきた。
保健室から出てくるのが一体誰なのか。俺の心臓はドキドキ煩くて。思い当たるような奴なんて仁王しかいないのに。でもその本人は俺のすぐ横にいる、じゃん?



『…来た、ぜよ』

「―――――…」

『…………』

「…オサム、ちゃん?」



トイレに隠れた俺達に気付く様子もなく歩いていったのは、チューリップハットを被った男、オサムちゃん。

何でオサムちゃんが…?
名前が寝てるベッドで何してた?キス、してたのはオサムちゃん?

教師と生徒、じゃねーの?
何で、何で、何で?



『ブンちゃん、行くぜよ?』

「あ、おぉ…」



いつもと変わらない表情の仁王。俺は仁王みたいにポーカーフェイスなんて出来ねー。

どうか、どうかあの人影が見えたベッドに名前が居ませんように。他の保健室利用者が居ますように。
往生際が悪い俺は最後にそう祈った。
お願い神様、今のは間違いだって、そう言って下さい。



「…………」



俺の願いは届かなかった。

こんな放課後、しかも部活が終わるような時間に保健室で寝てるような生徒なんか居なくて。
あの場所で名前はぐっすり寝ていた。



「……名前」

『う、ん、』

『…起きたかのぅ?』

『あーブン太、仁王君、』

『迎え来たぜよ』

『部活終わったの?お疲れさま』



まだ少し眠そうな目を擦りながら、笑顔でお疲れさまって。
…それが何だか妙に切なくなった。



『ブン太どうかした?ずっと黙りこんじゃって』

「いや、別に、何もねぇって」

『あ、オサムちゃんにしごかれて疲れたんでしょー?』



その名前、今はタブーなんだよ。



「違うに決まってんだろぃ」

『アハハ』



アハハじゃねーよ。
こっちは普通に接するのに必死なんだっつーの。

名前は寝てた。
寝てたってことはオサムちゃんのしたことだって何も知らないはずで、コイツは悪くない。前みたいにコイツにあたるようなことは出来ない。

でも本当に寝てた?
キスされたって知らねぇの?


『名前、今オサムちゃんが様子見に来とったみたいじゃが』



仁王が、本当は実際にどうだったのか、それを確かめるように質問をした。
俺も気になる、けど。でも…



『え、嘘!?オサムちゃんが?』

『やっぱり寝てて気付いてなかったんか』

『じゃぁ夢、じゃなかったのかな、』



“夢じゃない”

俺の頭が告げた。それ以上話の続きを聞いてはいけないって。

でも名前の言葉が止まるわけもなく。



『夢でオサムちゃんが出てきたんだ。頭、撫でてくれて』

「名前?」

『うん…アタシ、オサムちゃん好きになった』



その瞬間、体は鉛みたいに重くなって。
ハンマーで殴れたみたいに頭が痛くなって。漫画みたいに言葉が出なくなっちまった。



『もー、内緒にしててよ!2人だから打ち明けたんだから!』

『………』



仁王もさすがに黙ったままで。
名前は1人で顔を赤くしていた。



「…そっか、頑張れよ!」

『うん、応援してねブン太』

「任せろよぃ!っつーか俺、」

『うん?』

「さっき母親から連絡あってさ、買い物押し付けられたんだよ!だから送るっつって悪ぃけど先帰るわ!ごめんな!」

『そうなんだ、気にしないでよ!気を付けてね!』

「おぅ、じゃぁな!」



そう言ってダッシュで保健室から出た。
俺、ちゃんと笑えてたかな。精一杯笑ったつもりなんだけど。


それから、
ごめん。仁王。
押し付けるような真似して。
でも俺、あのまま居て仁王みたいに器用にポーカーフェイス出来る自信なかった。絶対、空気悪くしちまうって思ったから。



「俺、フラれたんだな…」



たどり着いたのは近所の公園。
がむしゃらに走って逃げてる途中に何だか込み上げてくるものがあって。

そんなの、親とか弟とか見せらんねーじゃん。たかが、女にフラれただけなのに泣いただなんて。

たかが……



「違う、たかが、なんかじゃねーよ……うっ、グス、」



声を出して泣くなんて何年ぶり?

出逢ってたった2日なのに。
そんな短い時間でもこんなに人を好きになることが出来るもんなんだ。俺は初めて知った。
でも、好きな気持ちが強ければ強いほど失恋の痛みってでけーんだよ。

名前の顔が頭ん中で何個も何個も過って。すげー痛くて痛くて痛くて。

笑うアイツ

怒るアイツ

慌てるアイツ

何か食ってるアイツ

応援してくれてるアイツ

1つ1つ、鮮明に記憶された表情を思い出す度に俺の目から涙が零れた。


幾ら俺が名前に惚れても、どれだけ好きになっても、

…アイツの目に俺は映らないんだ。

俺が泣く、そのことすら無意味なのかもしれない。


(200806/移動20120211)


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