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 act.4 (1/3)



むしゃくしゃする。
頭痛がする。
モヤモヤする。
………苛々しすぎて気持ちが悪い。



『仁王、どうした?』



後ろから声を掛けてくるのは幸村。さっきの練習試合を見て幸村は俺に何かあったんだろう、と読んだらしい。

自分でも無茶苦茶な試合だった、とは思ったんじゃが、それでも傍から見たらいつも通りに見えていたはずで、勿論試合も勝って。
それでも分かる幸村の観察力はやっぱり侮れん。



「…何もなか、」

『言いたくないならいいけど顔、酷いよ』

「プリッ」

『今日は目を瞑ってあげるけど、明日もそんな調子じゃ知らないから』

「………………」



この爽やかで綺麗なニッコリ顔がどれだけ恐ろしいか。
高校入ったばかり、1年なのに自分で組んだ練習メニューも先輩達に有無を言わせない辺りが本当に幸村の凄さを物語らせる。

ラケット片手にボールを遊ばせながら、コート脇のベンチに腰掛けるオサムちゃんを見る。
さすがに今もお喋りしてるなんてことはないが、その後ろでフェンス越しには名前がおる。

…そんな嬉しそうに誰を見とんじゃ。



「名前」

『仁王君!』



ちょっとでも長く、名前の目に自分を映してほしかった。
オサムちゃんでもなくブン太でもなく他の男じゃなくて俺を。

そう思った俺は休憩を使って名前がおるフェンス越しまで足を向けた。



『見てたよ、試合!話通り凄いんだね仁王君!』

「…見とったんか?」

『当たり前でしょ、バッチリ』



オサムちゃんしか見てないと思ったのに。



『仁王君、汗かいてるけどタオル無いの?』



ドーゾ、ってフェンスの穴から小さなタオルハンカチを差し出す名前。
とにかく名前の目に俺がおったことが嬉しくて、差し出されたタオルハンカチを名前の手ごと握り締めた。



『にお、君?』

「…………」

『どうしたの?体調、悪いとか?』

「名前の手に俺の臭ーい汗つけてやっただけ、」

『え!?』



タオルハンカチを取り上げていつも通り振る舞うと、心配したのに何ソレ!って怒りだす。

余裕そうに見えて実は精一杯。
でも、見せれんじゃろ。
こんな些細なことで一喜一憂する自分なんか。


タオルハンカチで汗を拭いた瞬間、ほんのり香る名前の臭いで気分が晴れた気がした。


(200806/移動20120211)


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