act.8 (2/4)
昼休み、オサムちゃんと一緒に居たくてアタシは教室を飛び出した。
職員室には居ない、屋上には居ない。となると、部室…
「オサムちゃん!―――あれ?」
勢い良くテニス部の部室を開けたものの誰も居ない。
何処、行ったんだろう…
うーん、と頭を抱えて部室から出るとテニスコートのベンチに人影。
あのチューリップハット…!
「オサムちゃーん!」
『!』
「何してるの?」
缶コーヒー片手にアタシを見て驚いたようだった。
珍しく煙草吸ってないー、なんて呑気思った矢先。
『なんか用か?』
「用ってわけじゃないけど何してるのかなーって」
『ならはよ教室戻れ』
「オサム、ちゃん…?」
『ええからはよ』
なに……?
オサムちゃんがおかしい……
「あ、あのっ、昨日保健室に様子見にきてくれたんでしょ?有難うアタシ―」
『俺は行ってへん』
「でもっ、」
『名字』
「!」
『お前と話したない』
オサムちゃんは目を合わせもせずそう言った。
アタシは、拒絶されたんだ…
いてもたってもいられなくなってその場を逃げるように後にした。
「ど、して…?」
“名字”
名字だった。名前で呼んでくれてたのに…
“話したない”
朝は笑ってくれたのに…
「オサム、ちゃん…オサ……っ」
悲しい、悲しい、悲しい。
アタシ何かした?
謝るから、だからアタシを見捨てないで。
オサムちゃん、嫌だよ。こんなの嫌だよ。
『、名前?』
「ブン太…?」
『お前また泣い――!』
タイミング良く来てくれたブン太に縋りついた。
“いつでも肩貸してやるから”
それが今のアタシは唯一救いだったから―――
ブン太、どうしよう。
頑張るって約束したのに。アタシ、もう頑張れないよ……
『……そっか』
ブン太はアタシに付き合って授業をサボってくれて。昨日のようにアタシの話を聞いてくれた。
『気にすんなって』
「………………」
『オサムちゃん、虫の居所悪かっただけだろぃ』
それだったらいいけど。
でも違う。あれは絶対的な拒絶だった。
アタシに近づくなって言ってた……
『……人ってさ、』
「……?」
『本当自己中だよな。自分が一番可愛くて、相手の為になんて思っててもやっぱり最後に選ぶのは自分なんだよ』
ブン太はポツリポツリ話を始める。
『でも何かした後ですっげー後悔すんの。馬鹿な事しちまったなーなんて。だからさオサムちゃんだって今頃後悔してんじゃねーの?』
「、ブン太…」
『お前も自分が一番納得いくように動けって。理由も知らずにこのままなんて嫌だろぃ?衝突する事なんか仕方ない、それが辛くて嫌だってんならもう諦めたらいいけど。……でも、名前の気持ちはその程度じゃねぇだろ?』
ブン太って、凄いな…
アタシより全然大人で、アタシに足りない事をちゃんと言ってくれる。
こうゆう人の彼女になれたらきっと幸せなんだろう。ブン太を好きになれば良かった。
だけど、
「有難うブン太。元気出た」
『おう』
アタシはやっぱりオサムちゃんが好きだ。
「なんかみっともないとこ見せてばっかりだね」
『友達、だからな』
「………ブッ!アハハ!」
『何で笑うんだよ』
「えー、ブン太が友達で良かったなぁって」
『……なんだそれ』
本当だよ。
心から思ってる。こんなアタシと友達になってくれたこと、感謝してる。
ブン太には幸せになってもらいたいよ……
『笑ってねーでこれでも食ってろ』
「あ、初めて会った時にくれたガムだ」
『これ、一番好きなの』
「アタシもー」
グリーンアップルガムに込められた想いを知らずに、アタシは笑った。
(200806/移動20120211)
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