お題/土萌羊 | ナノ


 


 14.




1月12日、その日を迎える15分前に携帯は着信を告げた。それは12日になる瞬間の15分後にアタシが自ら発信しようとしていた相手だっただけに、布団の中で丸まってた身体を起こさずには居られなくて、勢い良く飛び起きて通話ボタンを押した。


「羊君!?」

《ごめんね遅くに。もう寝てたかな?》

「ううん、全然寝てない。でもどしたの?」

《あのね、哉太と錫也が急に僕の部屋に泊まりに来ちゃって。そうなると、名前は何してるのかなって気になるのが筋でしょう?》


それがどんな筋なのかは羊君クオリティなだけあって分からないけど、いつもの4人で居る事からアタシを仲間外れにしないで気に掛けてくれる気持ちが純粋に嬉しい。
たまには男の子だけでって事もあるとは思うけど、それでも4人が前提って事が、布団から出た身体を暖かくさせてくれる。


「だけど、狡い」

《うん?》

「哉太と錫也だけお泊まりなんて狡いじゃん。アタシも行きたい」

《うーん…錫也のお説教は付いてくると思うけど、迎えに行こうか?》

「行ってもいいの?」

《駄目だって分かってはいるけど、僕が名前のお願い訊かない訳ないでしょう?》


相変わらずアタシに甘い、寧ろ甘過ぎて駄目人間になってしまいそうな羊君の声に頷いて電話を切った。直ぐに寮まで来てくれるんだろうけど、楽しみに思えばたった数分が永く永く感じて仕方ない。
だけど冬の夜の厳しさにも顔を顰めず、両手に息を吹き掛けて羊君を待った。


『名前』

「あ、羊君!」

『寒かったよね、部屋で待ってくれてれば良かったのにごめんね』

「ううん大丈夫!早く行きたかったもん!」

『そっか、じゃあ冷えちゃった手は僕が責任持って暖めてあげるから』


アタシの手より幾分暖かい左手が絡まったかと思うと直ぐ様ポケットに押し込められる。途端、中は暖房してる様な暖かさが広がって羊君が笑った。


『錫也がね、怒ってるくせに、名前の為にカイロ持って行けって』

「優しいママだねぇ!」

『僕はママでも妬けちゃうけど?』

「あははっ、またそんな事言って!アタシはこれから羊君の部屋に着く迄に錫也への言い訳考えなきゃなんないのになぁ」

『そんなの錫也の所為にしちゃえば良いんじゃない?』

「、どういう事?」

『錫也と哉太が僕の部屋に来たのが悪いって』

「あ!それ良いかも!羊君は電話くれたけど、2人はアタシを仲間外れにしようとしたからだもんね」

『当然そんなもり無かった筈だけど言い訳するなら持って来いだよ』


アタシだって分かってる。錫也と哉太がそんな事する訳無いって、羊君と同じくらい甘いんだって。
その証拠がこのカイロの暖かさと、お説教があっても部屋に行かせてくれる事だ。
それでも、羊君は2人とは違う甘さをアタシにくれてる気がする。例えば、哉太と錫也がケーキだとすると、羊君はケーキの甘さの元になる生クリームだとか砂糖だとか、そんな感じ。


『あれ、名前電話鳴ってない?』

「そうだ!そうそう鳴ってる鳴ってる!」

『もしかして錫也か哉太?』

「違います。誕生日おめでとう羊君」

『え、』

「0時ピッタリのアラームでした!アタシが一番に言いたくて、本当は電話しようと思ってたんだ。だから2人が部屋に泊まりに言ったって聞いて先越されるのが狡いなって!」

ポケットに入れた手とは逆の左手で携帯の時計を見せると、一瞬だけ瞠若して直ぐにまた笑顔に戻った。くしゃっと笑ったその顔が尚更甘く感じる。


『名前は哉太と錫也が狡いって言うけど、名前だって狡いよね』

「え?何で?」

『僕もそう思ってたから』

「うん?どういう意味?」

『哉太と錫也も僕の誕生日だから来てくれたんだと思う、2人の気持ちは本当に嬉しいけど…やっぱり名前からのおめでとうが聞きたかったんだ』

「………………」


“だからね、狙って電話したっていう僕の自己満足だったんだよ”
やっぱり、羊君の甘さは特別だ。
他の誰よりも甘くて、溶けそうになる。


『自己満足まで君からの幸せに変えて貰えるなんて最高の誕生日だよ、ありがとう』


このまま溶けたい気持ちもあったけど、溶けるより羊君の甘さをもっと感じたいって思ったから、ポケットから手を出したアタシは羊君の背中に飛び付いた。
今にも雪が降りそうなくらい寒い夜なのに、好きだなぁって呟く声のお陰で暖かくて仕方なかった、そんな誕生日。

(錫也、アイツ等遅くねえか?)
(そうだなぁ、このまま帰って来ない可能性も無くはないだろうな)
(はぁ!?っざけんなよ!俺迎えに行って来る!)
(ははっ、俺も行こうかな。せっかくのケーキが無駄になるのもあれだし、まだ早いからな)
(早い、って何がだよ)
(それは言えない)
(なんだよそれ!)



(20120113)

誕生日おめでとう羊君!
羊君を知って初めての誕生日なのにグダグダですみません気持ちだけは盛大に!



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