長編 | ナノ


 


 16.




平助君が暴走した沖田さんを止めてくれてやっと皆揃って布団の中へ入った時、二列に作った川の字が不満なのかまた沖田さんがボソッと呟いた。



『思ったんですけど土方さんはまだ遣らなきゃならない仕事があるんじゃないですか?山南さんは頑張ってるみたいですし、こんな呑気に寝てるだなんてどうかと思うんですけど』

『今日の分は飯が終わった後で済ませたんだよ…それよか総司、てめえの言い方じゃまるで俺が寝る事に不満がありそうじゃねえか』

『ありますね。強いて言うなら土方さんを筆頭に皆が此処に居る事が不満ですよ、これからは僕と名前ちゃん二人きりの時間なのに』

「どんな時間なのそれ!強いて言う事じゃないから!」



逐一突っ込まなきゃいけない様な発言をする沖田さんが平助君とは反対隣に居るなんてこのまま安眠出来るんだろうか。だけど昨日は何も無く寝られた訳だし結局のところ冗談なんだろうけど…ただ沖田さんは眼が本気に見えるから怖いんだってば。



『総司、副長も時に早く休みたくなる事もあるものだ』

『そう言う一君は今晩巡察じゃなかった?疾しい事でもあるのかなぁ』

『む…今日は些か腹の調子が悪くてだな…』

『じゃあ厠で一晩過ごした方が賢明だと思うけど』

『………………』

「ま、まあまあ!沖田さんもそんな事ばっかり言わないでせっかく皆が揃ってるんだから楽しい話題に変えようよ!」



流石に腹痛だと言ってる斎藤さんが可哀想に思えてフォローに入ってみたものの、隣からは痛い視線が突き刺さる。勿論そんなの沖田さんに決まってるんだけど。



『楽しい話題って何なの?』

「唐突に聞かれると困るけど…」

『じゃあ何でも良いから僕、名前ちゃんの話しが聞きたいな』

「アタシの話し?」

『あ、俺も聞きたい!名前の話し聞きてぇ!名前の事知りたいし!』

『毎日顔を合わせてる野郎の話しを聞くよか有意義だってもんだわな、気になる女の話しなら尚更だ』

「ちょ、ちょっと、平助君と原田さんまで…!」

『決まりだな。こういう事は言い出しっぺが始めるもんだ』

「土方さん…」

『期待している』

「…………斎藤さん…」



フォローしてあげたって言うのに期待してるって。此処はフォロー返ししてくれるもんじゃないの?
にしてもこんな急に話しを振られても何を言えば良いのか…うーん、頭を掻く仕草をして唸るとひとつ昔話が浮かんだ。こっちは真剣に愚痴ってたにも関わらず話しを聞いた友達は大爆笑してたんだよね、だからきっと皆も面白可笑しく聞いてくれる、そう信じて枕に肘を付いてから口を開いた。

あれはアタシが高校1年生だった頃、2年前のお話し。
入学して何ヶ月か過ぎて高校というものにも慣れた時、欲しい物があって街へ寄り道をしてると男の子に声を掛けられた。

(1人なの?可愛いのに勿体ないじゃん)

よくあるナンパというやつか、そう思って断り文句の「もうすぐ彼氏来るんで」なんて言ってやろうと振り向くと。
そこには今まで出逢った事がないくらいアタシのタイプな人が居た。そりゃこうなれば話しは別じゃん。是非ご一緒して下さいだし、携帯番号も知りたいし、何なら深い仲になろうじゃありませんか!そう意気込んで必死だった。
まあその甲斐あって付き合う迄は漕ぎ付けたんだけどね…問題はそこから。付き合い立てのラブラブカップルと言えばやっぱりニャンニャンな空気になる事が必然な訳で。初めてだったのも踏まえてアタシは緊張と興奮でボルテージ上がりまくり。ついにこの時が来たんだ、アタシ大人になるよママ!そう耽ってたのに。

(何言ってるの?俺とこの先行くってんならお金が掛かるよ?こんな色男捕まえてタダで出来るなんて上手い話しある訳無いじゃん!そっちは普通より可愛いかなぁってくらいなのにさ)

そんな事を吐かしやがったのだ。
つまりあれですか援交ならぬ逆援ですか?アタシまだピチピチの16歳なのに?
上手い話しどころか、そんな馬鹿な話しあってたまるか!!
アタシの中でプツンと何かが切れたと同時に、気付けば顔中傷だらけの男の子が居たのでした。(爪で引っ掻いた挙句、鞄でどつき回したのは内緒)



「―――とまあ、こんな事があったよ、みたいな?」

『『………………』』

「あれ?皆笑ってくれないの?」



アタシの薄情な友達は『凄いねそれ!ギャグなの!』とか腹抱えて笑ってたのに何で黙りなの?
どうしてどうして?
怪訝な表情を浮かべる皆が不思議でならない、何でだろ、そう思ってると、



『てめえ等、準備は良いか』

『いつでも良いですよ』

「え、何の!?」

『羽織も刀も準備済みだぜ!』

『今すぐ斬ってやらなきゃいけねえよな』

『後はそやつの居場所を掴むまでだ』

「物騒な事言って何処行く気!!」



新選組の羽織を纏って、既に鞘から刀を抜いた皆が気合いを入れていたんだった。
やけに刃が光って見えるのは…気のせいであって欲しい。

(そんな至上極悪な不逞浪士は俺達が斬ってやるから安心しろ)
(いや、不逞浪士じゃないし!)
(悪人まで庇うとは…その優しさが勿体ないであろう)
(庇うとかそんな問題じゃないからね?)
(で、何処に居るんだ?)
(昔話だから…この時代の人じゃないから…)
(じゃあ名前の居た時代に行きゃ良いんだろ?)
(方法が分かればアタシ此処に居ないし)
(もう。意外と我儘なんだね名前ちゃんて)
(どうでも良いから刀しまってよ)




(20110118)




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