ベッドでツムツムをしていると、ごっこ遊びをしよう、と名前は言った。
「たとえば?」と俺は言った。制限時間はあと30秒。
「魔法使いごっことか。わたしが魔法使いで、火神がシンデレラ」という名前の声がした。
「ふつー逆じゃね?」
そこそこ悪くないスコアが表示された液晶がふいに眼前から消えた。
「構ってってば」と名前は俺のスマホを片手に言った。

「わーったよ、ごっこ遊びな」
不細工な顔で見下ろしてくる名前に腕を伸ばし、ぐいと引き寄せると、バランスを崩して俺の腹の上に落ちてきた。
シャンプーの香りがふわりと漂い、思わずその髪のひと束を耳にかけてやると、「そうじゃない」と名前は言った。

「違うの?」
「うん」
「じゃあほら、魔法使い役やれば」

投げやりな調子に聞こえたらしく、名前は一瞬むっとした顔をしたが、それでも俺の鼻先に人差し指を突き出して、「ちちんぷいぷい」と可愛らしく唱えた。
次の瞬間、ドスの効いた声が響いた。

「やあやあやあ、我こそは国一番の魔法つかい」
「意外性のある始まりだな」
「ここで会ったが百回記念、お前の望みを一つだけ叶えてやろう」
「そんなに会ってねーよ」
「さあ火神大我よ、遠慮するでない。我の機嫌の良いうちに何でも申してみるがよい」

俺の腹の上で名前は偉そうな顔をしている。まあかわいいなと思いながら、「今からベッドイン」と言った瞬間、ビンタを食らった。真面目に考えなければいけないらしい。

「あーじゃあ分かった、ずっと一緒にいてくれよ」
魔法使い、もとい名前は、ぴたりと動きを止めた。
「なんでも叶えてくれるって言ったろ?」
名前はいつもそうだ。俺がちょっと先の話をするとフリーズして、それからうまくはぐらかしてしまう。俺の言葉を信用していないのか、それとも深読みしすぎなのか知らないが、気にくわない。
少なくとも今は嘘じゃないのだ。受け止めてくれてもいいじゃないか。

「いいけど、代償が一つ」
「なんだよ?」
「タイガもずっとわたしといなきゃならないし、このお願いは取り消せない」
「分かってるよ」と言うと、名前は静かに首を振った。

「タイガは分かってない」
名前はそう言って、その瞳に俺の顔を映した。照明の具合だろうか、なぜか紫の光が入っていた。そのほかはどこまでも真っ黒だった。
名前が俺に見せていない面があるのは薄々気付いていた。たまにこうしてその一端を垣間見ることがあった。少々危険な気がした。でも魔法にかかっているのでどうしようもなかった。

「分かってるよ。全部じゃねーけど」
「本当に?」
「ああ。信じていいぜ」

名前はまぶたを伏せた。俺も天井を見た。
今度はどこまでも真っ白だった。名前の「ふうん、たかがごっこ遊びだよ」という声が聞こえた。


20180812



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