翌朝、調査兵団団長室にミテラの絵が飾られた。
「どうだ、リヴァイ。なかなかいいだろう」
エルヴィンは、リヴァイが入ってくるなり、満足そうに言った。
絵の空白部分にちょうどおさまるように、まるでその一部のように、エルヴィンは座っていた。
「教養をひけらかすクソッたれ貴族みたいだな」
「まあそう言うな。お前のミテラが描いたんだぞ」
「お前の、とは」
リヴァイは怪訝な顔で次の言葉を待った。
「お前があんな少女に目をかけるなんて、明日にでもウォールマリアが陥落するんじゃないかというもっぱらの評判だ」
「笑えねえジョークだな。あいつの地図を評価したのはお前らだろう」
「そう、彼女の描くものは素晴らしい。これもそうだ。真ん中に転がる林檎。一体、何を暗示しているんだろうな?」
エルヴィンは両手の指を組んで、その上に顎を乗せた。
「リヴァイ。あの日どうして、ミテラの前で足を止めたんだ?」
リヴァイはぐっと答えにつまった。
確かに、ミテラの絵を見る前に、リヴァイはわざわざ馬車を下りていた。
それはなぜだったのか?
リヴァイは肝心な何かを思い出そうと試みたが、指の間をすり抜けていく白い砂のように、痕跡すら残っていなかった。
「分からない」
「今はそれでいい。いつか分かる日が来るだろう」
リヴァイは、今はエルヴィンに隠れて見えない林檎を思った。
手に入れてはいけない果実。
「エルヴィン、何様のつもりだ? お前はミテラを使って何がしたいんだ」
「私はお前を心配しているんだよ。地下街で会ったときよりはマシだが、近ごろずいぶん荒れていたそうじゃないか。無断外出が続いていた。目つきが悪すぎると若い奴らが震え上がっていた」
リヴァイは、ミテラに会った日もふらりと兵舎を抜け出して、酒を飲んでいたことを思い出した。
無断外出と責められるいわれはないと思っていた。
習慣だったのだ、誰に言う必要もないような。
しかし、リヴァイはミテラの世話に追われ、その習慣をすっかり忘れていた。
「俺は、変わったのか?」
リヴァイの声はがらんとした空間に吸い込まれた。
エルヴィンは何も答えなかった。
「お前は俺に何を求めているんだ?」
リヴァイが再び問うと、エルヴィンはゆっくりと口を開いた。
「人類最強であり続けることだ。我々は勝たなければならない。
−−どんなに手を汚しても」